マンガで読める『夢酔独言』

マンガで読める『夢酔独言』

勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』がマンガで読めるブログです。

勝小吉著・『夢酔独言』とは 冒頭文現代語訳

 勝海舟の父親・勝小吉および彼の自伝『夢酔独言』を後世に残すべく延々とマンガ化している当ブログですが、改めまして、『夢酔独言』入門として、原作『夢酔独言』と作者・勝小吉について冒頭文と現代語訳(意訳)を載せました。これから『夢酔独言』を読もうという方のお役に立ちましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

・『夢酔独言』とは

 

 勝海舟の父親・勝小吉が晩年綴った自伝。反省・教訓を交えつつ、自身の半生を記録している。文体は、全編口語体と文語体を混ぜた喋り言葉で構成されている。なお、小吉は21歳まで文盲だった。

 タイトルの『夢酔独言』は小吉の隠居後の名「夢酔」から取っている。原題は『鶯谷庵独言』。鶯谷庵という住まいで書いたため。書かれたのは、天保十四年(西暦1843)。

 

・勝小吉とは

 

  1802~1850。本名、勝左衛門太郎惟寅。「小吉」は通称。

 江戸生れの武士。男谷平蔵の三男で、妾の子。7歳の時、勝家に養子入りする。妻の信は勝家の娘で、2歳年下。

 5歳の時、近所の子供とのケンカで相手を流血させ、自分も怒った父親に下駄で殴られ、頭が陥没する。

 14歳の時、箱根まで家出して死にかける。具体的には、盗人に身ぐるみをはがされ、病気になり、崖から落ちて金玉を打った。

 21歳の時、長男・麟太郎を授かるが、妻の妊娠中二度目の家出しており、連れ戻されて座敷牢に入れられていた。息子が3歳の時、隠居して家督を譲ろうとしたが、父親に怒られて止めた。

 その他、馬鹿馬鹿しいエピソードには事欠かない。

 42歳の時、自伝『夢酔独言』を書く。1850年9月4日、49歳で死去。

 

 

 
・『夢酔独言』の内容と構成

 文庫本にして、約120ページ程度。冒頭数ページと最後の結びは教訓・反省文で、他は勝小吉の出生から順を追って、42歳で『夢酔独言』を書くまでの半生が綴られている。名目は「悪い手本」だが、本人の性格がにじみ出て、終始、武勇伝および自慢話になっいる。

 約20%がケンカ、10%が剣術関係、40%が人の世話、5%が吉原、10%が14歳の時の家出、残り5%が息子(後の勝海舟で構成されている。

 本人が一生無役だったため、武士の仕事の話は一切なし。江戸の町でヤンチャをしまくった末、世話焼きおじさんになったフリーターの回顧録

 

 

 

・冒頭文について注意

 

 『夢酔独言』本文は小吉の武勇伝として面白く読めるのですが、いかんせん、冒頭の数ページは、小吉の「よーし、今からお説教を書いてやるぜ!」という意気込みのせいで、文章が硬くて読みづらいです。

 なので、初めて『夢酔独言』を読まれる場合は、冒頭を飛ばして、「おれほどの馬鹿な者は世の中にもあんまり有るまいとおもふ。」から始まる、小吉が生まれてからのエピソードから読むことをおすすめします(平凡社 東洋文庫138 勝部真長編『夢酔独言 他』11ページ~)。

 しかしそれでは、小吉がせっかく書いた冒頭文が報われません。

 ここに原作冒頭文の引用と、はやおきによる意訳を載せておきます。

 

 参考文献:平凡社 東洋文庫138 勝部真長編『夢酔独言 他』5~10ページ

 

 

 

・『夢酔独言』冒頭

 

 

   鶯谷庵独言

 

 おれがこの一両年、始めて外出を止められたが、毎日々々諸々の著述・物の本・軍談、また御当家の事実、いろいろと見たが、昔より皆々名大将、勇猛の諸士に至るまで、事ゞに天理を知らず、諸士を扱ふ又は世を治むるの術、乱世・治世によらずして、或は強勇にし、或は法悪しく、或は奢り、女色におぼれし人々、一事は功を立つるといへども久しからずして天下国家をうしなゐ、又は知勇の士も、聖人の大法にそむく輩は、始終の功を立てずして、その身の亡びしためしをあげてかぞえがたし。

 和漢とも皆々天理にてらして、君臣の礼もなく、父兄の愛もなくして、どんよくきょうしや故に、全き身命を亡ぼし、家国もうしのふ事、みなゝゝ天の罪を受くる故と、はじめてさとり、おれが身を是までつゝがなくたもちしはふしぎだとおもふと、いよゝゝ天の照覧をおそれかしこみて、なかゝゝひとの中へも顔出しがはづかしくて、できずとおもふは。

 さりながら昔年、募悪の中よりして、多くの人を金銀をもおしまず世話をしてやり、又人人の大事の場合も助けてやつたから、それ故にすこしは天の恵があつた故、此よふに先あんのんにしているだろふとおもふ。

 息子がしつまい故に、益友をともとして、悪友につき合ず、武芸に遊んでいて、おれには孝心にしてくれて、よく兄弟をも憐、けんそにして物を遣ず、麁服をも恥じず、粗食し、おれがこまらぬよふにしてくれ、娘が家内中の世話をしてくれて、なにもおれ夫婦が少しも苦労のなゐよふにするから、今は誠の楽いん居になつた。

 おれのよふの子供ができたらば、なかなか此楽は出来まいとおもふ。是もふしぎだ。神仏には捨てられぬ身とおもふ。孫や其子はよくゝゝ義邦の通りにして、子々孫々のさかえるよふにこゝろがけるがいゝぜ。

  年八、九歳からは、外の事をすてゝ、学文して、武術に昼夜身を送り、諸々の著述本を見るべし。へたの学問よりはるか増しだから。女子は十歳にもなつたらば、髪月代を仕習つて、おのれが髪もひと手にかゝらぬよふにして、縫はりし、十三歳くらいよりは、我が身をひとの厄介にならぬよふもて、手習ひなどもして、人並に書くことをすべし。外へ嫁しても、事をかゝず一家を納むべし。おれが娘は十四歳のときから、手前の身の事は人の厄介になつたことはなゐ。家内じうのものが返て世話になる。

 男子は五体をつよくして、そじきをして、武芸骨をおり、一芸は諸人にぬきん出、ていをたくましくして、旦那の為には極忠をつくし、親の為には孝道を専らにして、妻子にはじあいし、下人には仁慈をかけて使ゐ、勤をば固くして、友達には信義をもつて交り、専らにけんやくしておごらず、そふくし、益友には厚くしたゐて道を聞き、師匠をとるなら、業はすこし次にしても、道に明らかにして俊ぼくの仁をゑらみて入門すべし。

 無益の友は交るべからず。多言をいふ事なかれ。目上の仁は尊敬すべし。万事内輪にして慎み、祖先をまつりてけがすべからず。勤は半時はやく出づべし。文武をもつて農事とおもふべし。少しも若いときはひまなきよふ道々を学ぶべし。ひま有時は外魔が入りて身をくずす中だち也。遊芸には寄る事なかれ。年寄は心して少しはすべし。過ればおのれのよふになる。庭へは諸木を植ゑず、畑をこしらい、農事をもすべし。百姓の情を知る。世間の人情に通達して、心におさめて外へ出さず守るべし。人に芸の教授せば、弟子を愛して誠を尽し、気に叶はぬものには猶々丹精を尽すべし。ゑこの心を出す事なかれ。万事に厚く心を用ひする時は、天理にかなゐて、おのれが子孫に幸あらん。何事も勤めとさらば、うき事はなかるまじ。

 第一に利欲はたつべし。夢にも見る事なかれ。おれは多欲だから今の姿になつた。是が手本だ。高相応に物をたくわいて、もし友達か親類に不慮の事があつたならば、おしまずほどこしやるべし。縁者はおのれより上のひとゝ縁組べからず。成丈ひん窮より相談すべし。おのれに勝るとおごりがつく。家来はびんぼう人の子をつかうべし。年季たちたらば分げんの格にして片付てやるべし。女色にはふけるべからず。女には気を付くべし。油断すると家を破る。世間に義理をばかくべからず。友達をば陰にて取りなすべし。常住座臥とも柔和にして、家事をおさめ、主人の威光をおとすことなし。聖賢の道に志して、万慎みて守るときは、一生安穏にして、身をあやまつことはなかるまじ。

 おれはこれからはこの道を守る心だ。なんにしろ学問を専要にして、能々上代のおしへにかのふよふにするがいゝ。随分、して出来ぬことはなゐものだ。それになれるとしまへにはらくに出来る物だ。けつして理外の道へいることなかれ。身を立て、名をあげて、家をおこす事がかんじんだ。たとへばおれを見ろよ。理外にはしりて、人外のことばかりしたから、祖先より代々勤めつゞいた家だが、おれひとり勤めなゐから、家にきづを付た。是がなによりの手本だは。今となり、醒めていくら後悔をしたからとて、しかたがなゐ。世間の者には悪輩のよふにいわれて、持つていた金や道具は貸し取りにあいて、夫をとりにやれば、隠居が悪法でこしらいた道具だからなに返すに及ばずといふし、金も又その心持で先がいるから、ろくに挨拶もせずによこさぬは。悟れば向ふが尤とおもふよい。かよふの事が出ても、人をばうらむものではない。みんなこつちのわるいとおもふ心がかんじんだ。怨敵には恩をもつてこたへば、間違はない。おれは此度も頭よりおしこめられてから、取扱のもの共をうらんだが、よくゝゝ考へて見たらば、みんなおれが身より火事を出したと気がつゐたから、まいばんゝゝゝゝ罪ほろぼしには法華経をよんで、陰ながらおれにつらく当たつたと、おれが心得違した仁々へは、立身するよふに祈つてやるから、そのせいかこのごろはおれの体も丈夫になつて、家内のうちになにもさいなんもなく、親子兄弟とも一言のいさかひもなく、毎日毎日笑つてくらすは、誠に奇妙のものだとおもふから、子々孫々とも、こふしたらよかろふと気がつゐた故に、ひまにあかして、折々書付た、善悪のむくゐをよくゝゝ味おうべし。

 恐多くも東照宮の御幼少の御事、数年の御難戦故に、かくの如くに泰平つゞき、万事きかつにうれゐわすれ、妻子をあん楽にすごし、且は先祖の勤苦おもいやるべし。夫より子孫はふところ手をして、先祖の貰つた高を取うけて、昔を忘れて、美服をき、美味をくらいうし、ろくの御奉公をも勤めざるは、不忠不義不孝ならずや。こゝを能おもつて見ろ。今のつとめは畳の上の仕事だから、少しもきづかいがないは。万一すべつてころぶくらいの事だ。せめては朝は早く起きて其身の勤にかゝり、夜は心を安くして寝て、淡白のものを食し、おごりをはぶいて諸道に心をつくし、不断の着類は破らざれば是として、勤の服はあかのつかざれば是とし、家居は雨もらざればよしとし、畳きれざれば是として、専らに倹素にして、よく舵をおさめ、勤めつき合には身分に応じて事をすべし。なんぼけんやくをすればとて、吝嗇はすべからず。倹、吝の二字を味おふてすべし。数巻の書物をよんでも、心得が違ふと、野郎の本箱字引になるから、こゝは間違はぬよふにすべし。武芸もそふだ。ぶこつの業を学と、支体かたまりて、野郎の刀掛になる故、其心すべし。

 人間になるにも其通りだ。どんよく迷ふと、うはべは人間で、心は犬猫どふよふになる。真人間になるよふに心懸るが専一だ。文武諸芸みなゝゝ学ぶに心用いらざれば、不残このかたわとなる。かたわとなるならば学ばぬがましだ。よくゝゝこの心を間違はぬよふに守が肝要だ。

 子々孫々ともかたくおれがいふことを用ゆべし。先にもいふ通り、おれは今までも、なんにも文字のむづかしい事はよめぬから、こゝにかくにもかなのちがひも多くあるから、よくよく考えてよむべし。

 

 天保十四寅年の初冬、於鶯谷庵かきつゞりぬ

   

   左衛門太郎入道 夢酔老

 

 

 

 ・冒頭文意訳

 

 

 おれがこの一、二年、初めて他行留(=外出禁止の罰)を食らってから、もろもろの著述本から、軍談、徳川御当家についての記録まで、毎日いろいろな本を読んだ。

 昔から、名大将、勇猛の士に至るまで、人や世を治めるにつけ、道理を知らない。あるいは強引に、あるいは悪法を使い、あるいは奢り、女色に溺れた人々は、一時は功を立てたとしても、いつか天下国家を失う。これは乱世・治世にかかわらぬ。また、知勇の士も、聖人の大法にそむく輩は、決して功を立てられず、その身を滅ぼすものだ。

 日本だろうが清国だろうが、君臣(君主と臣下)の礼もなく、父兄の愛もなくして、貪欲驕奢(おごりたかぶる)故に、身命家国も失うのは、天の罰を受けた故だ。

 おれはこれのことを初めて知った。それを思うと、このおれの身がこれまでつつがなく保てたのも不思議だよ。おれの悪行をお天道様が見ていたと思うと、なかなか人の中へ顔を出すのも恥ずかしくって、できねえと思うわ。

  とはいえ、かつて誘惑の多いなかで、多くの人を金銀も惜しまず世話をしてやり、また大事の時も助けてやった。それで少しは天の恵みがあった故、このようにひとまず安穏にしているんだろうぜ。

 息子は真っ当なものだ。良い友達を持ち、武芸に遊んでいて、兄弟の面倒も見、倹素にして物を使わず、粗末な服でも恥じず、粗食をし、おれには孝行して、困らぬようにしてくれる。

 娘が家中の世話をしてくれて、おれ夫婦が少しも苦労のないようにするから、今は誠の楽隠居になった。

 おれのような子供が出来たらば、なかなかこの楽はできまいと思う。これも不思議だ。神仏には捨てられぬ身とさえ思う。孫やその子はよくよく義邦(息子・麟太郎のこと)の通りにして、子々孫々の栄えるよう、心掛けるがいいぜ。

 八、九歳からは、他のことは捨てて、学問して、武術に昼夜身を送り、いろいろの著述本を見るべし。読書は、下手な学問よりはるかマシだ。

 女子は十歳にもなったらば、髪月代の仕方を習って、自分の髪も結えるようにして、裁縫をし、十三歳にもなったらば、我が身を人の厄介にはならぬつもりで、手習いなどもして、人並みに字を書くことをすべし。外へ嫁いでも、事欠かず一家を治めること。おれの娘は十四の時から、自分の身のことは人の厄介になったことはない。家族じゅうがかえって世話になる。

 男子は五体を強くして、粗食をして、武芸に骨を折り一芸は人より抜きん出、旦那(将軍)のためには忠義を尽くし、親のためには孝行、妻子には慈愛、下人には仁慈をかけて使い、勤めは固く、友達には信義を持って交わり、倹約しておごらず、粗服し、益友にはあつく慕って道を聞くべし。師匠を取るなら、技は少しまずくっても、道理を心得た俊朴な人を選んで入門すべし。

 無益の友と交わるべからず。何でも心におさめて、多言を言うことなかれ。

 目上の人は尊敬すべし。先祖を祭りて汚すべからず。

 勤めには半時(約一時間)早く出るべし。

 文武を勤めと思え。

 若い時は、少しも暇のないよう道々(道理、学問、武芸他)を学ぶべし。暇ができると誘惑が入って身をくずす。遊芸には近寄ることなかれ。年寄りは気を付けて少しはすべし。やり過ぎるとおれみたいになる。

 庭には木など植えず、畑をこしらい、農事をすべし。百姓の情がわかる。

 世間の人情をよく知り、しかし心におさめて外へは出さず守るべし。

 人に芸を教える時は、弟子を愛して誠を尽くせ。思うようにいかぬ者には、いっそう真心を尽くすこと。えこひいきをしてはならねえよ。

 何事も、あつく心を用いれば、天の道理に叶い、子孫の幸いとなるだろう。それを勤めと思えば、心配することはない。

 第一に利欲は断つべし。夢にも見ることなかれ。おれは多欲だから今の姿になった。これが手本だ。

 高(収入)相応に物を蓄えて、もし友達か親類に不慮の事があったらば、惜しまず施してやるべし。

 縁組は自分より上の人を選ぶべからず。なるたけ貧窮の家と相談すべし。こちらより勝っていると驕りがつく。家来は貧乏人の子を使うべし。長く勤めてくれた者は、それなりの格にして片付けて(処遇して)やるべし。

 女色にはふけるべからず。女には気を付けるべし。油断すると家を破る(家計が破綻する、あるいは家庭崩壊)。

 世間に義理を欠くべからず。

 友達を陰で取りなすべし。

 いつも柔和に、家事(家のいろいろなこと)をおさめ、主人の威光を落とすことのないように。

 聖人、賢人の道を志し、それを守るならば、一生安穏にして、間違いを犯すことはない。

  おれはこれからはこの道を守るつもりだ。何にしろ学問を最優先にして、よくよく昔からの教えにかなうようにするがいい。ずいぶん、して出来ぬことはないものだ。慣れると、しまいには楽に出来るようになる。

 決して理外の道へ入ることなかれ。身を立て、名を上げて、家をおこすことが肝心だ。

 例えばおれを見ろよ。理外に走りて、法外なことばかりしたから、祖先より代々勤め続いた家だが、おれが一人勤めないから、家に傷をつけた。これが何よりの手本だわ。今になって、目が醒めていくら後悔したとて、仕方がない。世間の者には悪輩(悪者)のように言われて、持っていた金や道具は質屋に取られて、それを取りにやれば、「隠居(小吉のこと)があくどい手段でこしらえた道具だから返すことはない」と言われるし、金を貸してやったやつらもそのつもりだから、ろくに挨拶せず、返しもしねえ。

 だが、向うがもっともだと思うがいい。そのようなことがあっても、人を恨むものではない。みんなこっちが悪いと思う心が肝心だ。恨めしく思う相手には、恩情をもって応えれば、間違いはない。おれはこの度も頭(かしら)よりおしこめられてから、取扱(とりあつかい=上官)の者どもを恨んだが、よくよく考えたら、みんなおれが身より出した火事だと気が付いた。

 それからは、毎晩罪滅ぼしには法華経を読んで、おれにつらく当たったとおれが心得違いした人々に、陰ながら祈ってやっている。

 そのせいか、この頃はおれの身体も丈夫になって、家族に何のいさかいもなく、毎日毎日、笑って暮らしているよ。誠に奇妙のものだが、子々孫々とも、こうしたらよかろうと気が付いた。

 おれが折々書きつけた、善悪の報いをよくよく味わうべし。

 恐れ多くも東照宮様(徳川家康)のご幼少の頃の苦労、長年にわたっての戦があって、今のような泰平の世が続いているのだ。飢渇(きかつ=飢えや渇き)に憂うことを忘れ、妻子とも安楽に過ごしているだろう。先祖の苦労を思いやるがいい。それを子孫は懐手(ふところで=懐に手を入れる→他人に任せて自分では何もしないこと)をして、先祖が得た報酬を譲り受けて、昔を忘れて、美服を着、旨い物を食い、それでいてろくにご奉公も勤めないのは、不忠・不義・不孝というものだ。ここをよく考えろ。

 今の勤めは畳の上の仕事だから、少しも心配することはねえ。まんいち、滑って転ぶぐらいのことだ。

  せめては朝は早く起きておのれの勤めにかかり、夜は心静かに眠り、淡白なものを食し、驕りを省いていろいろな道に精進しやれ。

 普段の着物は破れなければよし、勤めの服は垢が付かなければよし。家は雨漏りがなければよし、畳は擦り切れなければよしだ。もっぱら倹素にして、よく家のことを治め、勤め・付き合いは身分に応じてするがいい。

 いくら倹約するといったって、吝嗇(りんしょく=ケチ)はいけねえよ。倹約とけちを間違えねえように。

 たくさんの本を読んだって、心得が違うと野郎の本箱字引(知識ばかりで役に立たない)になるから、そこを間違わぬようにすべし。武芸もそうだ。無骨(ぶこつ=役に立たない)の技を学ぶと、肢体が固まって、野郎の刀掛け(武道において、役に立たないこと)になる。

 人間についても、その通りだ。貪欲迷うと、うわべは人間でも、心は犬猫同様になる。真人間になるように心掛けるが専一だ。文武諸芸とも、学ぶのに心を欠けば、残らず中途半端になる。それなら学ばぬがましだ。よくよくこの心を間違わぬよう、守るべし。

 子々孫々とも、固くおれが言うことを用いるべし。前に書いたとおり、おれは今だって、難しい字は何にも読めぬ。ここに書くにも、仮名の違いも多くあるだろう。よくよく考えて読むんだぜ。

 

 天保十四年の初冬、鶯谷庵にて書き綴る。

 

   左衛門太郎こと、夢酔。

 

 

 

・補足

 

 

 この一連のくだりは、マンガ『夢酔独言』百三十二話にまとめてあるので、よければご覧ください。

musuidokugen.hatenablog.com

 

 原作『夢酔独言』を読むにあたって、読みにくい字、分かりにくい用語、お金の円換算などは、こちらにまとめてあります。

musuidokugen.hatenablog.com

 

 

 

f:id:hayaoki6:20190404134512j:image

マンガ『夢酔独言』 二十三話「またまた逃亡」 1~4ページ

    ペン入れ&セリフ入力ができ次第、順次公開していきます。全ページ公開できたら、解説文を付け加えます。

 あらかじめ原作の該当箇所を文章で打っておきますが、ネタバレをこうむりたくない方は、読まないようにしてください。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20240331204851j:image

f:id:hayaoki6:20240407185153j:image

f:id:hayaoki6:20240414181308j:image

f:id:hayaoki6:20240421175438j:image

 

 

 

 娘へ機嫌を取り、引き解きの着物(袷の着物の綿を抜いたもの)の継ぎだらけなを一つもらいて、閏八月の二日、銭三百文戸棚にあるを盗んで、飯をたくさん弁当へ詰めて、

「浜へ行く」

と言って、夜八つ(午前2時頃)時分起きて喜平次が家を逃げ出して、江戸へその日の晩の八つ頃に来たが、あやにく空は暗し、鈴が森にて犬が出て取り巻いた故、一生懸命大声をあげてわめくと、番人乞食が犬を追い散らしてくれた故、高輪の漁師町の裏に入りて、海苔獲り船があったから、それをひっくり返して、その下に寝たが、あんまりくたびれたせいか、あくる日、日が昇っても寝ていたから、.…

※はやおきによる現代仮名遣いで引用

 

 

 

マンガ『夢酔独言』 番外編(『詠め草』より)

 突然ですが、勝小吉の著作の一つ『詠め草(ながめくさ)』より(個人的には読んでたけどもブログで書いたことなかった)、天保十一年(西暦1840)、夢酔(小吉)が39歳の時のお話です。主に夢酔が詠んだ歌から膨らました、ほぼほぼフィクション演出です。15分で考えて2日で書きました。

 

f:id:hayaoki6:20240417195716j:image

続きを読む

デジタルで描いた絵

 ブログに載せるのをすっかり忘れていましたが、はやおきは2024年3月あたりから、デジタル作画の勉強をしています。

 とゆう訳で、デジタルで描いた絵をここには載せます。新しいのが、上に来ます。

 

 

 


f:id:hayaoki6:20240409172022j:image

f:id:hayaoki6:20240409172026j:image

 四番目にデジタルで描いた絵です。両手ピースの小吉。

 珍しく線がキレイ…と思いきや、むしろ線画をデジタル作画するのを諦めて、アナログで描いた線をスキャンして、色だけデジタルで塗りました。

 横に並べたのは、試しに背景を塗りつぶしたものです。

 

 


f:id:hayaoki6:20240409172120j:image

 三番目にデジタルで描いた絵です。一度目の家出中盤頃の小吉。

 もはや全身を描くのをすっかり諦めておる…。

 透明水彩とゆうツールで塗ったものです。色が全然乗らないけども、手描きっぽくなるので好き。

 

 

 


f:id:hayaoki6:20240409172127j:image

 二番目にデジタルで描いた絵です。

 藍摺り風(浮世絵の様式の一種で、色を基調にしたもの)です。

 線がむちゃんこ汚いとゆーか雑ですが、はやおきのデジタル作画装置が板タブ(板状タブレット…パソコンにつないだ板にペン状装置で操作をすると、パソコン画面に反映されるもの)なのですが、はやおきはこれが大変苦手で、綺麗に線が引けないもんで、ある程度までやったところで「練習だからいいや!」と思って色付けに移行しました。

 液タブ(液晶タブレット…画面に直接描ける装置)買おう。

 

 


f:id:hayaoki6:20240409172124j:image

 初めてデジタルで描いた絵です。

 嬉しげに浮世絵っぽいグラデーションを入れてますね。

 最初だからこんなもんです。全体的に斜めってるけども気にしないでください。

 

 

 

ちなみに、学習教材はユーキャンのデジタルイラスト講座です。もともとデジタルに二の足を踏んでいたはやおきですが、学習意欲が乏しい人ほど、教材やカリキュラムが揃っているほうが、取り組みやすいと思いました。だいたい1ヶ月くらいで、塗りだけなら手描きぐらいいい感じになります。

 

 

 

 

 

 

マンガ『夢酔独言』 二十二話「小吉、漁師になる」

    勝小吉自伝『夢酔独言』より、小吉14歳、一度目の家出エピソードその11です。

 箱根山中で崖から転落して、金玉を打った小吉。小田原三枚橋で休んでいると、人足に「ウチで奉公しない?(意訳)」とスカウトされます。マンガ『夢酔独言』、漁師編スタートです。

 

f:id:hayaoki6:20240204195902j:image

続きを読む

マンガ『夢酔独言』 二十一話「箱根山の放浪」

 勝小吉自伝『夢酔独言』より、小吉14歳、一度目の家出エピソードその10です。

 石部(現代の滋賀県)で出会った親方に「江戸へ帰れ」と言われ、府中(現代の静岡県)まで連れてきてもらった小吉でしたが、その晩に親方がケンカ騒ぎを起こし、小吉と別れることになります。

 放浪の旅を再開した小吉ですが、崖の所で寝て、当然ながら崖から転落します。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20231217185326j:image

続きを読む

明けましておめでとうございます

    このブログを読んでくださる皆様、去年はとってもお世話になりました。今年も、マンガ『夢酔独言』および勝小吉をよろしくお願いいたしますm(_ _)m

 

 2024年1月に描いた絵です。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20240101155254j:image

    干支の絵を描こうと思っていたものの、クリスマスの絵で力を使い果たして、元旦の朝に起きてから描いた絵です。

    恐竜を飼うと世話が大変。

 

 

 

THE BOY AND THE HERON

    色を塗った一枚絵をまとめた記事があったのですが、どういう訳かブッ飛んで消えてしまったので、また新しくここに、色を塗った一枚絵をまとめていきます。

 新しく描いた絵が、上に来ます。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20240409181617j:image

THE BOY AND THE HERON(2024,2,29)

 いつも行ってる映画館で上映が終わっちゃったので、何か描きたくて描いた絵です。

 はやおきはこの映画が大好きで、この時点で18回観に行っています。

 この後、外国の権威ある賞を獲ったので上映が再開されましたが、それももうすぐ終わっちゃうのでとてもさみしいです。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20231226184422j:image

しゃがむ小吉(2023,12,26)

 小吉10歳くらい。稽古着を着ています。

 コピックで塗りました。

 

 


f:id:hayaoki6:20231226184425j:image

走る小吉(2023,12,26)

 小吉9歳の年の喧嘩の一場面です。落書きを清書したもの。

 右奥にいるのが、小吉の弟・鉄朔です。

 コピックで塗りました。スキャンしたらメチャクチャ薄くなった…。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20231224190514j:image

江戸時代のサンタさんB(2023,12,24)

 3年くらい前に描いた、江戸時代のサンタさんシリーズの別ヴァージョンです。

 オオカミ使い。腰に提げたチャルメラ(楽器)で、オオカミを操ります。

 スキャンすると分からなくなりますが、模様とかボタンに金色の絵の具を使っています。

 クリスマスイブに間に合って偉いね!

 

f:id:hayaoki6:20231224190547j:image

 こちらは、前に描いた江戸時代のサンタさん。サンタクロースのイメージカラーは緑だろ!という熱い思いのもと描きました。

 

 

 

 最近描いた落書きを清書しました。

f:id:hayaoki6:20231213171714j:image

頭を触る小吉(2023,12,12)

 ちょっとむかしの絵にあるような、ペン画に淡い水彩で色を付けているのが好きなので、そんな感じに塗りました。

 目元がオレンジ色になってますが、インクが垂れちゃったからですがまぁ大事には至りませんでした多分。
f:id:hayaoki6:20231213171721j:image

7の字になってる小吉(2023,12,12)

 これは、元の絵では紙の丈が足りなくて、身体を曲げた気がします。清書ははがきサイズの紙にしたんですが、ここでもスペースが足りなくて片足が入ってません。

 1枚目とは違う塗り方にしました。

f:id:hayaoki6:20231213171717j:image

川原をブラブラ歩く小吉(2023,12,12)

 全体的に薄ーくを心がけました。血色はもっと元気にしてもよかったかもしれない。
f:id:hayaoki6:20231213171711j:image

月琴を弾く小吉(2023,12,12)

 月琴(げっきん)というのは、江戸時代に流行った楽器です。

 絵は、モテようと思って太夫に月琴を借りて練習するの図です。

 

 いずれも、コピックで塗りました。

 

 

 


f:id:hayaoki6:20231119140426j:image

f:id:hayaoki6:20231119140429j:image
東海道を行く小吉(2023.11.17)

    雲で枠が切れるのをやってみたかった絵です。コピックで塗りました。

 左がスキャンしたものですが、色が飛んでしまうので、右に写真撮影したものも載せておきます。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20231116170647j:image

イッカク模様の着物(2023.11.15)

    江戸時代の絵に、たまにイッカク(角が生えてる魚…のようでクジラの仲間だそうです)の図を見かけるので、当時新し物好きの人は、こういった着物も仕立てたかもしれないとゆう図です。花魁の衣装のように、立体的でヒレがピラピラする仕立てです。すごく重そう。

    靴を履いているのは、これが「きものの日」にちなんで描いた絵だからです。下駄とか草履じゃ、普段着になってしまうので。靴の良し悪しが分からないので、いっそデッキシューズです。自分は履いたことない。

    コピックで塗りました。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20231031213404j:image

2023年のハロウィン絵(2023,10,31)

    蛙の仮装をした小吉です。元ネタは、『上方恋修行』(歌川国貞の春画)。

 左手に持っているのは龕灯(がんどう…照明器具の一種)。実際は、手に持ってる人には光は当たらなかったそうです。

 コピックで塗りました。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20230730163529j:image

一度目の家出中盤の小吉(2023,7,30)

    今現在描いているくだりの小吉です。汚れを描くのが楽しかったです。

    最近はコピックで色を付けていたのですが、修正液を使ったため(コピックは修正液の上だと色が乗らないので)、絵の具で塗りました。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20230617224815j:image

謎ポーズの小吉(2023,6,13)

 タイトルの通りです。

 下半身をもっと小さくした方がよかったかもしれない。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20230520165101j:image

信(2023,5,16)

 小吉の妻の信です。

 肌の色はもっと薄いつもりだったのですが、薄いつもりで塗ったら濃かったです。額とか頬のところは、ヤベーと思ってぼかした部分です。コピックで塗りました。

 試みに裾の布を白にしましたが、汚れそう。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20230519174414j:image

横顔(2023,5,15)

 肩慣らしがてら描いた絵です。

 コテコテ塗ってしまいましたが、もっとアッサリパッキリ塗られてる方が好きです。と同時に、光だか影だかに緑とかピンクとか使いたくて何も分からんまま塗ったら、髪の毛が虹色になってしまった。

 コピックで塗りました。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20230312134344j:image

臥龍梅(2023.3.5)

 勝小吉の著作…というか、他の人と歌を詠んだり文章を書いたのをまとめた『詠め草(ながめくさ)というのがあって、その中に臥龍梅(がりょうばい、梅の一種)を夢酔(小吉)が詠んだ歌があり、そこからアイデアを得て描いた絵です。

 当初、梅以外はラフに描こうとしたのに、気付いたら全部ちゃんと描くハメに…。

 しかし、梅の幹、桜に見えなくもない。

 コピックで塗りました。

 

 「入相の鐘の音にくし臥龍梅」 夢酔老人

 

 

 

f:id:hayaoki6:20230101131642j:image

HAPPY NEW EARS!!(2013,1,1)

    卯年の絵です。

 着物の柄は杵(きね)と梅です。

 ぶっつけで書いたら、字のレイアウトがムチャクチャになりました。

 

 

 

f:id:hayaoki6:20221226224343j:image

屏風の前で夜着を被る小吉(2022.12.26)

    夜着を描きたかった絵です。

 夜着の地模様は笹蔓(ささづる)、裏地は絞りで扇模様、布団は更紗、褌は謎のキラキラ素材です。

 屏風は月と天使。

 コピックで塗りました。