『夢酔独言』 五十七話 親父の親父の死
小吉の父親・平蔵の危篤の知らせがもたらされました。小吉は真崎の稽古場から、平蔵の隠宅へ駆けつけますが…。
通常より6ページ長い特別編です。
なんにしろ早く御勤入をしよふとおもつた故、方々かせいであるひていた内に、男谷の親父が死んだから、がつかりとして、なにもいやになつた。
しかも卒中風とかで、一日の内死んだから、其時はおれは真崎いなりへ、出稽古をしてやりにいつていたら、内の子侍が迎ひにきたから、一さんにかけて親父の所へいつたが、もはやことが切れた。夫(それ)からいろゝゝ世話をして、翌日帰つ。毎日其事にかゝりていた。息子が五つの時だ。夫(それ)から忌命があいたから又々かせいだ。
小吉が頭の傷をつくったエピソードはこちら。
月代を剃るときに、もしかしたらいったん髪をほどいていたかもしれませんが、主人公が物思いに沈むのに落ち武者みたいなヘアースタイルでは締まりがないので、結ったままにしました。
あんまり物語について作者が説明するのは興ざめなんですが、何かの時のために解説しておきます。
前半、小吉が父親について「小吉がいるから丈夫でいられる」というように回想していますが、それは小吉のねつ造であり、後半の、「小吉の将来が心配で死ねない」というのが実際です。小吉は父親に無役故にうしろめたさを感じており、記憶のねつ造をすることによって回避しようとするのですが、やっぱり無念である、というような心情です。
五十八話に続きます。