『夢酔独言』 八十五話 江戸の町は火事が多い
秩父屋三九郎という幕府の着物類御用達に、仕事の仲立ちを頼まれた小吉。かつて息子・麟太郎が大奥に居た「つて」で三九郎の世話をしますが、先方に渡すはずのお礼金を、三九郎が出そうとせず…。
麟太郎と火事のお話もあります。
冒頭の麟太郎のくだりは、麟太郎の先生著『長崎海軍伝習所の日々』に記載があります。
一八五八年(安政五)は大火の年で、四月には江戸で長崎全市ほどの広い町が灰塵(違う漢字が使われていますが、意味はだいたい同じです)に帰した。このことは、艦長役の勝氏が、夫人から受け取った音信によって私に語って知らせたのであるが、勝氏の全財産は、その大火のために失われたとのことである。それだのに勝氏は、笑いながら「いや、それしきのこと、何でもござらぬ、一八五六年(安政三)の折は、もっと凄うござった」と平気で付言していた。実際、この世の事はすべてが比較的である。
笑い飛ばすくらい江戸の人が火事に慣れていたという見方もできますが、麟太郎―勝海舟は、こういった大きな視点で物事を見るのが好きでした。奥さんはてめえふざけんなと思ってたでしょうが。
本編では、小吉が御用聞き商人の世話をして、お姫様の引っ越し絡みの仕事をあっせんしてあげます。
この時頼んだ瀬山さん、紅井さんは二人とも大奥の人で(なので紅井さんが男性になっていますが、実際は女性です)、麟太郎が7歳の時江戸城で将軍様のお孫さんのお相手をしていた時のつてを、小吉は利用したのでした。
ちなみに1ページ目に登場した火の見櫓はこれです(『新版写真で見る幕末・明治』より)。超でかい。はしごバージョンもあります。
さて、ここ数話ほど小吉が暴れるシーンがありませんでしたが、八十六話「二番目の兄」より新シリーズ、小吉がモメるゴネるの本領発揮です。
いつも登場するたび小吉に困らされていたのは彦四郎お兄ちゃんですが、小吉には、もう一人お兄ちゃんがいたのです。というお話。