『夢酔独言』 八十七話 悪知恵
34歳の年、10年間絶交していた2番目の兄・三郎右衛門さんと仲直りした小吉。ところが翌年の春、三郎右衛門さんの惣領・忠蔵が、何者かに殺されてしまいます。
用心のため、しばらく林町の三郎右衛門さん宅に通う小吉。
そんな折、三郎右衛門さんの三男・正之助が、三郎右衛門さんの出張のお供をすることに。小吉は現地で役立つ知恵を、正之助に教えてやりますが…。
前半、忠蔵の事件後の手続きや呼び出しに奔走する小吉ですが、呼び出された先のお座敷でも、ひと悶着をおこします。
マンガでは省いていますが、原作で事細かに相手の役職や名前を書いているところ、すごく根に持っていたか、立場がある人物とケンカしたのを自慢したかったようです。
或時、同所御座敷にて、大草能登守が与力神上八太郎といふ者と大談事をしたが、同所留主居の神尾藤右衛門・御徒目付石坂清三郎・評定所同心湯場宗十郎等が中へいりて、だんだん八太郎が不礼のだんをわびるから、大草へもいわずに帰た。
凡(およそ)一時ばかりのこと、御座敷中が大騒動したが、いゝきびだつけ。相士の者は皆々振へていおつた。
公共機関で騒いで「いい気味」とか、さすがのクソ野郎ぶりです。
また、同じ年のエピソードとして、従弟の竹内平右衛門さんおよび親戚絡みのくだりがあるんですが、ほぼ手続き上だけの話で、また今後のエピソードにあまり影響しないので、はぶきました。ただ、『夢酔独言』伝道師として義務があるので、ここに引用しておきます。
此年、従弟の竹内平右衛門が娘を、おれが実娘にして、六郷忠五郎といふ三百俵の男へよめにやつた。忠五郎は元より弟子故、縁者になつた竹内の惣領三平が、此年御番入をしたが、くるしくつて出勤ができぬから、御断を申て引く(役職を断わって引退する)といふから、おれがいろゝゝ工夫して、翌日登城させたら、大御番になつた。其親父が悦で、「一生恩は忘ぬ」と、いつたが、後年いろゝゝおれをはめおつた。
はじめに出てくる竹内平右衛門さんは、のちのち、小吉の友達として、何回か登場します。
小吉をはめたという「竹内の惣領・三平の親父」は、平右衛門さんのことか?とも読めるんですが、おそらく平右衛門さんのお兄さんのことでしょう。
今回は、三郎右衛門さんの三男・正之助がキーパーソンです。
「二十を超えて未だ無役」はフィクション発言ですが、「放蕩者(と原作に明記があります)」だった正之助。彼のために、小吉は出張先でお金を取る術を教えます。
三郎右衛門さん的には、そういうことされるのが一番困ると思います。
で、そんなこんなを書いた手紙が、三郎右衛門さんに拾われてしまいます。これは激怒の予感…!
八十八話「兄弟の情が薄いじゃないか」に続きます。