『夢酔独言』 八十八話 兄弟の情が薄いじゃないか
甥っ子の正之助に、支配地での知恵を書いた手紙をやった小吉。
どういうわけか正之助が手紙を落とし、手紙の内容が、正之助の父親である小吉の次兄・三郎右衛門さんに知れてしまいました。
小吉は長兄・彦四郎さんに呼び出され、説教タイムスタートです。
小吉、相手を怒らせたうえで言い返して優位に立とうというスタイルのようです。その手に乗せられて 、お兄ちゃんたち血圧すごい上がってそう。
お兄ちゃん:「おのしはなぜに正之助へ智恵をかつていろゝゝ支配所の事を教た。其上に羅紗羽織きているが、なぜそんなにおごりおる」
としかるから、おれがいふには、
小吉:「正之助へ書状をやりし覚へはなく、羅紗のはおりは少高故に、身成りが悪ゐとゆうづうが出来ぬ故、無二余義一(余儀なく)きており舛(ます)」
といつたら、
お兄ちゃん:「其外にも聞た事が有。此頃はもつぱら吉原はゐりをするよし。世間にてはおぬしが年頃にはみんなやめる自分に、不届の致方だ」
といろゝゝいふから、
小吉:「御尤(ごもっとも)にはござ利舛が、是も矢張身上の為につき合に参ります」
といふと猶々(なおなお)いかつて、
お兄ちゃん:「何事もおれに向て口答をする。親類がおれがいふことを誰もいゝ返すものはなゐに、おのし壱人ばかり刃向ふは不埒だ。今一言言つてみろ。手は見せぬ」
と脇差の柄へ手を掛けていふから、
小吉:「夫(それ)は兄でも余り御言葉が過ませう。私も上の御人だ。犬も朋輩、鷹も朋輩だから、そふは切られ舛まい」
とておれも脇を取つたらば、…
この時小吉36歳、大兄・彦四郎さん61歳です。36歳頃には、みんな吉原卒業しているそうです。けっこう早い。
彦四郎さんは祐筆といって文書を書く役職に就いていた人で、小吉みたいに血の気が多くありません。そんな彦四郎さんに脇差に手を掛けさせるとは、小吉も煽り屋さんの才能が有ります。
そこで止めに入るのが、彦四郎さんの妻・お遊さん。
自分の妻は平気で殴る小吉ですが、お遊さんの言うことには素直に従います。
三郎右衛門さんの情に訴えるも、ダメっぽいと判断して早々貶めにかかる小吉。正之助に手紙を書いたのは事実ですが、どうやってこの事態を切りぬけるのか…!?
八十九話「そんな手紙は書いてない」に続きます。