勝小吉自伝『夢酔独言』より、小吉13歳の年のエピソードです。
今回から、「家出編」(タイトルネタバレ)がスタートします。
前回、塾をサボって馬にばかり乗った挙句、お母さんのお金を盗んでお兄ちゃんに怒られ、外出禁止を言い渡された小吉。13歳の秋になり、お兄ちゃんが信州へ戻ったため、自由の身となりますが、お姑さんとの折り合いは相変わらず悪く…。
1コマ目に得体の知れない抽象的なお菓子が登場しますが、羊かんです。最初、でかいの一本にしようと思ったんですが、「江戸時代の羊かんてそんなおっきかったっけ?」と迷った挙句、小さく切り分けました。しかしその2日後ぐらいに、江戸時代の記録に「羊羹一棹」というのがあったことを知り(中略)後ででかいのに描き直すかもしれません。
羊かんが載っているのは、古伊万里の芙蓉手(ふようで、芙蓉の花のように区画して模様を描く様式)の器です。芙蓉手はけっこう昔からあるので、最近(1800年以降)買ったのでもいいし、勝家に昔(1700年頃)からあったとしても成立する模様です。
以上、本筋に関係ない情報でした。
十三歳の年の秋、兄が信州へ帰ったから、またまた諸方へ出歩き、のらくらしていたが、とかくおれが婆あ殿がやかましくって、おれの面さえ見ると、叱言を言いおる故、おれも困った。しまいには兄嫁に話して、知恵を借りたが、兄嫁も気の毒に思って、親父へ話してくれたが、そこである日親父が婆あ殿へ言うには、
「小吉もだんだん年を取る故、小身者は煮炊きまで自身で出来ぬと、身上をば持たぬものだから、以来は小吉が食物などは当人へ自身にするようにさっしゃるがよい」
と言ってくれた故、なおなおおれのことは構わず、毎日毎日自身で煮焼きをしたが、醬油には水を入れておくやら、さまざまのことをするから、毎日毎日心持ちが悪くってならなかった。よそより菓子、何にてももらえば、おれには隠してくれずして、おれが着物は一つ拵えてくれると、世間中へ吹聴して、悪くばかり言い散らし、肝が煎れて(イライラして)ならなかった。親父に言うと、おればかり叱るし、こんな困ったことはなかった。
※『夢酔独言』より、はやおきによる現代仮名遣いで引用
小吉13歳の家庭事情です。
簡単に人物紹介です。
・勝小吉…『夢酔独言』の著者兼主人公。勝家の婿養子。13歳
・男谷彦四郎…小吉の兄。小吉の25歳年上。一時期江戸に居たが、信州へ帰った
・勝信…小吉の許嫁。11歳
・婆あ殿…信の祖母。小吉の姑
・兄嫁…彦四郎の妻
・男谷平蔵…小吉の父親。60歳
何やかんやで家庭内自炊をすることになった小吉。
「お菓子をくれない」とか、「親父に言ったら叱られた」とか、子供らしい不満をつのらせます。いかにももうすぐ家出しそうですね。
後半の、小吉と信のやりとりはフィクションです。
(追記)どーでもいいことだから忘れてたけども、108、109ページに登場する醤油の瓶は「コンプラ瓶」といって、江戸時代、醤油を輸出する際に使われていた陶器の瓶です。勝家の台所にあった可能性は非常に低いですが、作者の趣味で出しました。コマごとにデザインが違ってますが、気にしないでください。
それから、109ページで信がやってるのは手芸、花独楽を作っています。和紙で芯を作って、縮緬を張り合わせて花びらにし、花芯でまとめて棒を付けたら出来上がりです。こういう細工物は、お嬢さんのたしなみでした。これも当時の勝家でやってる余裕なんかなかった気がしますが、作者の趣味で出しました。
十二話「江戸から上方へ一人旅(仮)」へ続きます。
小吉、家出します(武士の無断外泊はご法度)。
お楽しみに!