マンガで読める『夢酔独言』

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勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』がマンガで読めるブログです。

マンガ『夢酔独言』 十七話「どうせ奉公するなら公家がいい」

 勝小吉自伝『夢酔独言』より、小吉14歳、一度目の家出エピソードその6です。

 ここまで物乞い&野宿生活をしながら府中へ来た小吉ですが、侍の馬の稽古に居合わせ、馬に乗ったら侍に拾われました。「この家にて辛抱しろ」と言われる小吉ですが…。

 

 

 

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 おれが腹の内で思うには、こんな家に辛抱して居ても何にもならぬから、上方(かみがた)へ行きて、公家の侍にでもなる方がよかろうと思って、ある晩単物(ひとえもの)も帯もたたんで寝床に置いて、襦袢を着てその家を逃げ出して、

※原作『夢酔独言』より、はやおきによる現代仮名遣いで引用

 

 拾ってくれた与力の家で6、7日居た小吉ですが、「こんな家に辛抱して居ても何にもならぬから、上方へ行きて、公家の侍にでもなる方がよかろう」と思い、ある晩その家を逃げ出します。すごく身の程知らずな中学生みたいな発想ですね。まぁ中学生(14歳)なんですけども…。

 

安倍川の向うの地蔵堂にその晩は寝た。

 翌日、夜の明けないうちに起きて、むやみに上方の方へ逃げたが、銭は無し、食い物は無し、三日ばかりはひどく困ったが、それから一文ずつもらって、宇都宮の地蔵堂にふた晩寝たが、その夜五つ(20時頃)時分に、堂の縁側にドンと音がする故、その音にて目が覚めたが、人がいるようす故、咳払いをしたら、その人が、

「そこに寝ているは何だ」

と言いおるから、

伊勢参りだ」

と言ったら、

「オレはこの先の宿へ博奕に行くが、この銭を手前担いで行け。お伊勢様へお賽銭をあげるから」

と言いおる故、起き出てその銭を担いで行くと、確か鞠子(丸子)の入り口かと思ったが、…

 

 小吉が府中→安倍川→宇都宮→鞠子(丸子)と、場所を移動します。

 府中(静岡県)にいるのに急に宇都宮(栃木県)に行くのには困惑しますが、ちょっと調べたら、府中の近くに宇津ノ谷(うつのや)というのがあるので、どうもそこのようです。

※ネームを書いた頃は何も知りませんでしたが、調べてみると、『夢酔独言』での人名・地名の表記は物凄くテキトーです。

 

 絵図・地図上だとこんな感じ。


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    安倍川(この頃は橋が架かっていません)を越えて宇津ノ谷地蔵堂へ行き、そこから引き返して鞠子(丸子)へ行ったようです。

   引いた図(國郡全圖より)だとこんな感じ。f:id:hayaoki6:20221211164642j:image

 

 

…普請小屋へ入りしが、おれも続いて入りしが、三十人ばかり車座になりおって、おれを見て、

「その乞食めは何故ここへ入った」

と親方らしい人が言うと、連れの人が、

「こいつは伊勢参りだからオレが連れて来た」

と言うと、

「すんなら手前は飯でも食って待っていろ。今にお伊勢様へお初穂あげるから」

とて飯酒をたくさんふるまった。

 少し過ぎると、連れて来た人が銭を三百文ばかり紙に巻いてくれた。他の者も五十、百、二十四文、十二文てんでんにくれたが、九百文ばかりもらった。皆が言いおるには、

「はやく地蔵様へ行って寝ろ」

と言う故、礼を言うてこの小屋を出ると、一人が呼び止めて、大きなむすびを三つくれた。

 嬉しくってまた半道ばかりの所を戻って、地蔵へ賽銭あげて寝たが、…

 

 小吉が伊勢参りを名乗るや、めちゃめちゃ親切にしてくれる博奕打ちの皆さん。

 「九百両ばかりもらった」とありますが、マンガ『夢酔独言』レートで四文≒100円なので、約22500円くれたことになります。リアルにけっこうな額をくれる。

 

 半道(はんみち)は一里の半分約2㎞です。

    府中から鞠子(丸子)は1里16町、鞠子から宇津ノ谷が2里とすると、合計距離は3里16町、約13.7kmです。小吉が本気で歩くと日速50kmですが、この辺りで「三日ばかりはひどく困った」とあり、しばらく徘徊していたようです。

 

 

 

 …それよりふらふら一文ずつもらい、四日市まで行くと、先頃龍太夫を教えた男に会った。その時の礼を言って百文ばかり礼にやったらば、その男が嬉しがって、

久しく飯を腹いっぱい食わぬから飯を食おう」

とて、二人で飯を買って、松原に寝転んで食った。

 別れてより互いにいろいろの目に遭った話をして、その日は一緒に松原に寝たが、乞食の交わりは別なものだ。

 

 四日市で、小吉は伊勢で出会った男と再会します(十五話参照)。

musuidokugen.hatenablog.com

 

 府中から四日市までの距離感はこんな感じ。

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    府中から四日市は約69里296町22間、kmに換算すると約308kmです。約7日くらいで行けたと思われますが、府中・宇津ノ谷間でウロウロしていたことを加味すると、もっとかかったかも。

 

 

 一度目の家出エピソードは、小吉もう一つの著作『平子龍先生遺事』でも一通り語られていますが、鞠子(丸子)の博奕打ちや龍太夫を教えた男との再会は省かれています。

 

それより両三日居り候処、いろゝゝ江戸の様子聞かれうるさき故に出奔致し、又々乞食し、伊勢へ参り、

※『平子龍先生遺事』より引用

 

 

 

 十八話へ続きます。

 小吉が白子の松原で熱を出します。

 ネームでは一話で熱のくだりを終わらせていましたが、清書では二話費やすかもしれません。思い直して、一話にまとめるかもしれません。

お楽しみに!