『夢酔独言』 百五話 金をくれと言うための手紙だぜ
小吉が30歳頃のこと、地主を怒らせて土地を追出されましたが、その後、小吉の忠告通り、地主さんは失脚してしまいました。そんな地主さんのために、小吉が一肌脱ぎます。
地主が、或日、御代官を願うから異見を言ってやったら、大きに腹を立て、葉山孫三郎という手代と相談をして、おれを地面を追出そうとしたから、…
※原作より現代仮名遣いで引用
七十話「地主ともめてお引っ越し」にて、「代官になりたい」という地主さんに、「お前さんは歳も取り過ぎてるし、あんたんとこのボロい屋敷を直さなきゃいけねえから大金が要る、借金ができるし子孫が迷惑するから、仕事のできねえやつは代官なんかやらない方がいい」と、半分悪口みたいなアドバイスをしたところ、当然のように激怒され、借家を追い出された小吉。
地主さんはその後代官になれたようですが、4年目に失脚して、右腕の葉山孫三郎は揚屋(あがりや)という牢屋に3年入れられました。単純計算で、小吉が隠居した頃(36,7歳)になります。
気の毒に思った小吉は、地主さんを訪ね、地主さんが代官を務めた甲州へ手紙を送らせて、ひとまず600両用立ててあげたのでした。
600両は円に換算すると約5760万円、これでひとまず地主さんの家は持ちましたが、この金額は、百四話で小吉の友達が博奕で一晩で勝った金額と同じです。どういう世界観だ…。
ここで解説コーナー。
今は三十俵三人扶持だから困っている。江戸の掛屋にも千五百両斗り(ばかり)かりがある故、三人ぷちは向け切りになっている。
…というくだりが原作にあります。
「三十俵三人扶持」というのは、年に米三十俵ぶんの現金収入があり、月に三人分の米の支給があるということです。三十俵は決して多いわけでなく、3人分の米はもらえるといっても人数分家来を雇わねばならず、さらには家来へ給料も出さなくてはなりません。おまけに、「掛屋(貸金業者)」に借金が1500両(1億4400万円)あるから、収入はそのまま借金返済にあてられている、と言っているのです超大変!
後半は場面変わって、小吉の息子・麟太郎(16歳)が、剣術の師匠島田虎之助の元で修行に励みます。このくだりは、勝海舟の言葉集『氷川清話』にあります。
この人(島田虎之助)は世間なみの撃剣家と違うところがあって、始終、「今時みながやり居る剣術は、かたばかりだ。せっかくの事に、足下(あなた)は真正の剣術をやりなさい」といって居た。
9ページ目で麟太郎が使っているのは「振り釣瓶(ふりつるべ)」で、竹竿の先に鉄瓶を付けて、水を汲み上げました。
百六話「島田虎之助に会いに行く」に続きます。息子の剣術の師匠に、小吉が挨拶をしに行きます。