『夢酔独言』 百八話 後の孫一郎もまたふしだら
新章「上坂編」スタートです。
道楽者で有名だった先代の地主さんに、息子をよろしく頼むと託された小吉。所帯を持たせて生活水準も上げてやりましたが、その息子が、道楽を始めました。
岡野家の当主・孫一郎は父親譲りの道楽者。酒が大好きで、毎晩町人や若い娘に相手をさせて飲み明かします。岡野の親類からどうにかしてほしいと頼まれた小吉は孫一郎に忠告しに行きますが、ケンカになり、「勝手にしろ」と帰る小吉。しかし、先代の地主さんの頼みを投げ出すわけにはいきません。
「上坂編」の前半は、小吉が土地を借りている「岡野家」の当主「岡野孫一郎」と、新しく雇われた用人「大川丈助」を中心に、ストーリーが進みます。
ここで岡野家についてのおさらいです。
小吉は30歳の時岡野家が所有する入江町の土地に引っ越して、お金に困っているという地主さんの世話をしますが、かえって自分が貧乏になってしまいます。越して来たばかりの小吉は知りませんでしたが、岡野家の当主・岡野孫一郎といえば札付きの道楽者。小吉は奔走して、孫一郎を隠居させ息子に後を継がせ、息子の縁談をまとめたり、岡野家の屋敷を直したり、身分相応の生活が出来るようにします。そして、今わの際の孫一郎に、息子を託されるのでした。
あれから7年。今回登場する孫一郎は、亡くなった孫一郎さんの息子です。名前が同じなのでややこしいですが、二代目(実際何代目かは不明ですが)孫一郎とでも思っていてください。7年前14歳だったので、若干21歳です。
さて、岡野家の血筋か、後の孫一郎も道楽を始めます。
…おれが奥方を世話をして貰った時は、知行所へ談して百姓のまかないにした故、何もこまることがなかったが、おいおい当主が酒をはじめて、だんだんと取締もみだらになって、奥へ町人が直(じか)にはいり、酒の相手をするようになり、伯父の仙之助がいろいろ当主をだまして、品をもたいがい借りて遊びにかけるし、親類の倉端が悪法をして借り倒すし、仕舞(しまい)には近所の米屋の娘をよびこんで、毎晩乱酒するから、たちまち元の通りになってきた故、仙之助がすすめて大川丈助というまかない用人を入れた。
※原作より現代仮名遣いで引用
要約すると、新当主の孫一郎が酒の味を覚えて、一応武士である岡野家に町人やら近所のカワイ子ちゃんを呼び込んでどんちゃん騒ぎ。親戚もそんな孫一郎をナメてかかり、好き放題するから、せっかく小吉が立て直した生活が乱れ始めた。そこで孫一郎の伯父のすすめで、大川丈助という用人を雇った。という感じです。
このあたりのくだりは、マンガを読んだ方が分かりやすいです。なにしろ状況説明ばっかりなので、正直原作を読んでも初見では面白くないです。かく言う私も、マンガにするとき初めて面白いと思えました。
「上坂編」前半は、とにかく孫一郎がちゃらんぽらんのダメ当主で、したたかな用人・大川丈助にこれでもかと困らされるのを楽しむお話です。
何故、岡野家で雇った用人(庶務・会計係)の丈助が当主を困らせるのか?ですが…。
『夢酔独言』での用人は、一家の会計を引き受けているため、主人に隙があれば横領したり、使い込みをする人種なのです。
孫一郎はとりわけダメな当主なので、丈助につけ込まれて当然です。
百九話「立て替え金が三百三十九両になりました」に続きます。こいつは嫌な予感がするぜ!
ちなみに、先代の孫一郎さんのエピソードはこちら。