『夢酔独言』 百十八話 最期の宴会
11月から摂州の御願塚村で金策のため動き回っていた夢酔(小吉)ですが、12月に入り、江戸での支払期限も迫ってきました。そこで、武士の最終手段に出ます。
村方一同を集めて、宴会を催した夢酔。皆さんお金の話の時とはうって変わって、打ち解けます。そして酔いも回ったところで、夢酔、「今晩自殺をして江戸へ申し訳を立てる」と言い出します。
宴会の場面は、原作も現代とそう変わりありません。食べて飲んで、歌うたって、おしゃべりして、隠し芸を披露して、お湯かけご飯食べてお開きです。
「他のことでもないが、先月より、この村の地頭(領主)・岡野孫一郎のため、大川丈助への返済金を用意しろと命令していただろう。ところがお主たちは、仲間内で相談し、命令を聞き入れず、各々自分の用心ばかりで、地頭のことは少しも考えない。不届きの至りだ。もう金のことは頼まないから、そう思え。
今回は地頭のやむを得ない頼みだから、おれも病をおして江戸から大阪まで来て、お主たちへどうか頼むと言ったのだ。それを、今までの用人と同じ程度に思って取り合わず、不敬千万だ。そのうえ、おれに竹槍を向けたこともあったな。どういうつもりでそうしたか、訳を聞こうか。答えによっては明日きっと、町奉行へ訴えて究明してやるから、説明してみせるがいい」
※原作よりはやおき意訳で引用
小吉は最初からこの流れに持って行くつもりだったようですが、「喜びのことで宴会・酒も呑んで楽しく打ち解ける」からの「マジ説教」の流れは超怖いです。しかもこの時の小吉のたたずまいは、以下の通り。
床の間へ白椿を活けさせ、(中略)中間(ちゅうげん、身分の低い武士)が庭へ水を三杯、手桶に汲んできたから、それを浴びて、白無垢を着て、その上から時服(じふく、紋付の着物)を着た。座敷の真ん中へ布団を敷き、その上へ座った。左右には燭台を並べていた。
切腹する気満々のスタイルです。宴会の後でこんな格好で主催者に出てこられたら、リアルに寿命縮みそうです。現代風に例えると、手首に刃物当ててるとか、銃をこめかみに当ててるとか、そんな感じです。
その流れで説教をかまして、村の人達の思考力を奪う小吉。そして「自殺する」と宣言します。
百十九話「切腹」に続きます。