『夢酔独言』 百二十話 初めからそのつもりさ
金談がまとまらず、責任を取って切腹することになった夢酔(=小吉)。
でも大丈夫!勝小吉はここでは死なないのだ!…でも何故?
という訳で、自殺するとか切腹だとかは、お芝居&イメージ映像でした。
三、四人村方の者が喜三郎へ取り付いて、
「しばらくお見合わせくだされませ。一同が一言申し上げることがあります」
「早く申し上げろ」喜三郎が言った。
「先達てよりの仰せの義は恐れ入りました。我々の家財を売ってでも、金談はお受けいたします」
「もはや今になっては聞き入れぬ」とおれが返してやったら、
「なにとぞご生害(しょうがい=自殺)をとどまりくだされ」
とて涙ながらにいろいろ頼む故、刃物を鞘(さや)へ納めた。
新右衛門は腰を抜かしていたが、ようよういざり出て、
「まったく、私がお代官を勤めながら、行き届かぬ故このようなことになりました。せめては私の首を切って、江戸へお送りくだされ」
「この度のことは、これまで一同が私欲のみにして、地頭を軽んじた故のことだ」おれは言った。「おれは隠者だから、世の中へ望みはねえ。如何様になっても、大勢が助かって、夢酔(=小吉)が死んだと丈助が聞けば、きっと一条も手軽に済むだろうと思ったのさ。だが一同ともいよいよ金談を受けるからには、身命に替えても調達すると一札を出せ」
村方一同が、すぐに連名して書付を出したから受け取った。
「金子(きんす)はいつまでにお渡しいたしましょう」
「明日四ツ時(午前10時)まで」
「かしこまりまする」
一同が下がったから、喜三郎が加えて
「万一間違うときは、私が切腹するから出精しろ」
と厳しく言って脅したから、皆が怖がっていおった。
※原作よりはやおき訳で引用・セリフ赤字が小吉、茶色が喜三郎
ここまでのおさらいです。
小吉が家を借りている江戸の地主・岡野孫一郎が大川丈助へ渡す大金を調達するため、小吉は岡野孫一郎が地頭(=領主)をつとめている大坂の御願塚村まで行きます。村で金談をする小吉ですが、村がなかなか金を出そうとしないため、今回の切腹芝居となりました。
切腹が芝居だったというのは、原作の通りです。マンガでは展開が読めてしまうため伏せていましたが、小吉は村に来た当初から、
今に騙して、百姓腹に泡を吹かせて、金を出させてやろうと思っている故、
とか、切腹のときには、
家来へはその晩の狂言を言い含めて、
かねてより江戸から持ってきた首桶を出させて、
など、江戸を出る時から切腹の準備をしていたらしい記述があります。もちろん、すんなりお金を出してもらっていたら、実行には移さなかったでしょうが。
また小吉は、江戸を出る前、大川丈助に金を渡さない方法について、「金をやらぬようにする方法は、今皆様へお話し申すと、すぐに目でもお回しなさるから言いませぬ」と言っているので、この時点で切腹芝居のアイデアはあったようです。
小吉は二度目の家出の時、無職のくせして「おれは水戸の使いだ」と嘘をついてタダで宿や駕籠や人足を利用したり、詐欺師を騙し返すほどの根っからの大法螺吹きなので、何も驚くことはありません。御願塚村に来てからも、知りもしない町奉行と仲良しだと言い張って、村人を信用させていましたし。
百二十一話「百五十両を踏み倒す」に続きます。今度は江戸から連れて来た供の一人、猪山勇八郎さんがピンチです。