『夢酔独言』 百三話 おれをはめたのは誰か
素行の悪さから檻に入れられそうになり、37歳で隠居した小吉。さて、その元凶は、誰か。
隠居する2年前、甥の正之助に手紙を出した出さないで揉めた次兄・三郎右衛門の策略ではないかとにらんだ小吉は、正之助に探りを入れます。案の定、小吉の悪い噂を大兄へ吹き込んだらしいことが判り…小吉、三郎右衛門さんに仕返し開始です。
冒頭は、小吉の長女・はなと小吉のお姑さんです。お姑さんと小吉は、小吉が勝家に養子入りした時(小吉7歳)から仲が悪かったのですが、今では衰えて、小吉のことを判別できているかもあやふやです。でも、「旦那様」と呼ばれて悪い気はしてなさそうな小吉。という演出です。
小吉は36歳の時、素行の悪さから大兄の彦四郎さんに檻に入れられそうになって、隠居しました。しかし小吉には、それ程までの悪事をした覚えはありません。
…おれの身の上がこうなったは、誰か大兄へ進て詰め牢へまで入れようとしたか、とて夫(それ)をせぐった〔たぐった〕ら、林町の兄が、先年の恥しめた〔恥をかかされた〕意趣ばらし〔恨みを晴らす〕に、内中が寄てないことまで大兄へつげた、ということを慥(たしか)に聞届たから、…
※原作より現代仮名遣いで引用
「先年の恥しめた」エピソードはこちら。
つまりは、この2年前の出来事で小吉に恥をかかされた二番目の兄・三郎右衛門さんが、小吉を恨んで大兄・彦四郎さんにあることないこと告げ口して、小吉を檻に入れようとした、ということが判りました。
小吉の仕返しタイムのスタートです。
三男の正之助がほうとう(放蕩)者故に兄が困ていると聞たから、正之助を呼で、だまして聞たら、不レ残(のこらず)兄が謀(はかり)ごとを白状したから、
(中略)
おれが竹内の隠居をだまして、とうとう兄の判を拵(こしらえ)させて、蔵宿で百七十五両、勤めと入用が急に林町で出来たとて、正之助・竹内・諏訪部・龍蔵と男を頼んでやってかりたが、蔵宿でも三人が道具箱で肩衣(かたぎぬ)まできていった故、うたぐらずによこした。
手始めに従弟の竹内平右衛門さんを騙して、三郎右衛門さんの判を偽造させます。
次に三郎右衛門さんの三男、つまり小吉の甥っ子の正之助ですが、この正之助も騙して、偽造した判でお金を借りさせます。その金額175両。円に換算すると、約1680万円(一両約96000円として)です。「兄がりんしょく(吝嗇=けち)ゆえに大そうおこった」とありますが、けちじゃなくても怒ります。というか、そんなことばっかりしてるから、檻に入れられそうになったんでしょーが。
その175両を二ヶ月あまりで使ってしまった小吉、どこまでも知らんぷりをして、とうとううやむやにして済ませてしまうのでした。
初登場時から小吉に困らされてばっかりの三郎右衛門さんでしたが、ここで出番はおしまいです。小吉のことは忘れて、幸せに暮らして欲しいものです。
百四話「千両博奕」に続きます。今回正之助と一緒にお金を借りに行ったメンバーの一人、諏訪部さんが小吉に頼みごとをしに来ます。「よかろう」を口癖にしていた小吉ですが、ついに「いやだ」を使います。