マンガで読める『夢酔独言』

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勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』がマンガで読めるブログです。

『小吉の女房』 最終話「小吉、隠居して夢酔となる」感想・『夢酔独言』的解説

 BS時代劇『小吉の女房』 最終話「小吉、隠居して夢酔となる」の感想と、ドラマの原案にもなった勝小吉の自伝『夢酔独言』の内容を照らし合わせた解説をまとめました。

 

 

 

・あらすじ

 

 

 後年「天保の改革」と呼ばれる時代がやってきた。ぜいたくへの粛正が始まり、改革の名の下に、たちの悪い役人たちの庶民いじめが横行。小吉(古田新太)が後見していた市場も、いいがかりをつけられて窮地に陥ってしまう。腹に据えかねた小吉はお信(沢口靖子)の助力を得て、ある計画を企てる。

NHK公式サイトより引用

 

 

 

 

・感想

 

 

  ナメクジと石原おこしが出てくる。

 

 麟太郎(後の勝海舟)が冴え過ぎている。

 

 お信(沢口靖子さん)は最後までかわいい。

 

 

 

・『夢酔独言』的解説

 

 

 最終話は天保九年(西暦1838)初夏、小吉(古田新太さん)37歳、お信35歳、麟太郎(鈴木福さん)16歳です。

 冒頭は定番の、お信の「無病息災、家内円満」、そして小吉のラジオ体操をしつつの放屁から始まります。

 この頃天保の改革により、贅沢が禁じられ始めました。

 朝から奢侈(しゃし=贅沢)禁止令について話す勝一家。そこで麟太郎は、「贅沢を禁止すれば金の流通が滞って経済も滞る、長い目で見れば良くない」というようなことを言います。冴え過ぎか。

 『大学(儒教の教書・武士の教養)』を習うため男谷家に行った麟太郎、小吉の兄・彦四郎(升毅さん)に向かっても同様の発言をし、彦四郎に恐ろしい子…!」と思わせます。いや、そんなセリフは無いけども。

 

 一方、御役所勤めのイヤなやつ役・石川太郎左衛門(高橋和也さん)は、上司から「いたずらに町人と交わる者も罰せよ」と聞き、「ホホウ…、アイツ(小吉)だ」とほくそ笑みます。

 

 その後、勝家に銀次(小松利昌さん)「てえへんだー!」とベタなセリフとともにやって来ます。銀次によると、道具屋のおじさん(すみません、名前を失念しました)奢侈禁止令に引っ掛かって、手鎖にかけられたとのこと。道具屋さんへ駆けつける小吉とお信、すると道具屋さんはリアルに手に鎖をかけられている状態

「飯の時とか不便でしょう」と銀次、そうだね!

 話を聞くと、同心・岡っ引きの悪質なおとり捜査にひっかかり、うっかり店でいちばん高価な銀キセルを売ってしまったようです。

 憤慨して役所へ押しかける勢いの小吉ですが、銀次に止められて思いとどまります。

 その晩、お信から向島「ぜいたく屋」の話を聞いた小吉、ぜいたく屋ならぬ「ぜいたく市」というアイデアを思いつきます。このくだりは一捻りも二捻りも効いているので、ぜひドラマを観て確かめてください。ただ、あれだけお役人をコケにしたら、別の罪状で捕まってしまいそうですが…。

 

 なんやかんやあって、小吉の暴れっぷりに堪忍袋の緒を切らした兄・彦四郎は、いつの間にか家の庭に檻を作って、小吉に入って反省しろと言い放ちます。

 マンガではこのシーン。

 

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 このあたりのくだりは、ドラマと『夢酔独言』では微妙な違いがあって、『夢酔独言』では、天保八年(西暦1837)の夏のある晩に男谷家へ呼び出された小吉が、兄嫁のお遊甥の男谷精一郎「彦四郎が檻に入れって言ってるけど、反省して家に帰れ、妻とも相談しろ」という説得をしますが、それに対して小吉は、「いや、兄貴が檻作るぐらい怒ってるなら入るわ、そして食を断って死ぬ!女房には後のことは言ってきた!」と訳のわからない強情を張ります。

 

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 この時の小吉のセリフがこちら。

「先に言うとおり、何にも家のことは気にかかることはない。息子が十六だからおれは隠居をして早く死んだがましだ。長生きをすると息子が困るから。息子のことは何分頼む」

※『夢酔独言』より現代仮名遣いで引用、言い回しはそのまま。 

 

 で、結局その晩は檻へも入らず吉原へ行って一泊して(武士の無断外泊はご法度)、兄へ一筆書くよう言われてそれもせず、心配した兄嫁・お遊のために、翌年春、やっと隠居したのでした。

 ドラマでは都合上、天保の改革と隠居の年が同じになっています。

 

 

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 ドラマではあまり小吉との絡みがない兄嫁・お遊(高橋ひとみさん)ですが、妾腹の小吉が、実際に母のように慕っていたのは、このお遊さんです(彦四郎と小吉は25歳年が離れているので、兄嫁との年齢差も、親子ぐらいだったと推測できます)。小吉は14歳の時姑のお婆様(江波杏子さん)とのあつれきが原因で家出しますが、直前にお遊さんに相談をしていました。また、隠居前兄たち(小吉にはもう一人の兄・三郎右衛門がいます)と小吉がもめた時、間に入ったのはお遊さん、そして、今回の隠居騒動の時、お遊さんが小吉を心配する余りあちこちに祈祷を頼んだので、小吉も隠居せざるを得なかったのです。

 

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 ちなみにドラマでは麟太郎が「その歳(37歳)で隠居は早過ぎます!」と言っていますが、小吉は24歳の時今は亡き父に向かって「息子が三歳だから隠居して家督をやりたい」などとのたまったトンチキなので、これでもだいぶ先延ばしにした方です。その際も、自身の父親に「それはよくない」と手紙で説教され、「もっともだ」と初めて気付いたそうです。 

  

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 さて、いよいよタイトルの意味を回収する時が来ました。

 小吉は隠居後の名前を「夢酔」にします。自伝のタイトル『夢酔独言』は、「夢酔の独り言」という意味です。

 お信は「夢酔」の由来を「酔生夢死(すいせいむし、何も成すところもなく、いたずらに一生を終えること」と説明していましたが、読み書きもおぼつかなかった小吉が、本当にその意味で付けたのかは謎です。でも、きっと意味を自覚しながら付けたのだと思います。

 

 その後、お婆様は衰えて、亡くなってしまいます。お婆様を演じていた江波杏子さんも、『小吉の女房』が最後の出演作となりました。ご冥福をお祈りいたします。亡くなる直前のお婆様の演技にも、静かな凄みがありました。

 『夢酔独言』では、お婆様が亡くなるのは、小吉が大坂へ行って百姓を集めて切腹をすると脅かして550両まき上げて帰宅した翌日のことでした。自伝に書き残しているということは、お婆様の死は、小吉にとって多少なりとも、思うところはあったのでしょう。

 

 お婆様の喪が明けて、小吉(夢酔)は息子・麟太郎に「おれの真似はするな」と、一句詠みます。

 

気はながく こころはひろく いろうすく つとめはかたく 身をばもつべし

 

 これは 『夢酔独言』に書き添えられた句です。気は長く、心は広く、女性関係はほどほどに、堅実に勤めて、生活を続けなさい、という意味です。教訓の寄せ集めで情緒も何もありませんが、小吉なりに、子孫へ伝えたいことを詰め込んだ歌です。

 もう一句あります。

 

 まなべたゞ ゆふべになろふ みちのべの 露のいのちの あすきゆるとも

 

 例え道ばたの露のようなはかない命でも、勉強に励みなさい、という歌です。

 どちらの歌の内容も、本人は少しも実践していません。

 

 

 

 最後に、ナレーションで勝海舟が両親について語った言葉というのが登場しますが、これは明治三年、海舟が両親の墓石の裏に書いた碑文に由来します。

 詳しい内容はPHP研究所発行 勝部真長訳『夢酔独言 現代語訳版「勝小吉自伝」』で読むことができますが、ここに全文を引用します。

 父・小吉については、

 父左衛門太郎惟寅(さえもんたろうこれとら、小吉の正式名称)は、男谷平蔵の九男(これは平蔵についてである可能性が高い、小吉の兄の記録は2人しかない)であったが勝家の養嗣子となり、幕府に仕えて小普請組となった。後致仕(ちし、隠居)して夢酔と号した。人となりは大まかで、ものごとにこだわらず、一旦承諾したことは必ず実行する性質であった。容貌魁偉(ようぼうかいい、顔や体が並外れて大きいこと)で若くして撃劍を好み、その奥技に達し、門人数十人を擁していた。しかし当時頽廃華美な風潮の中にあって、身を持するに朴(けんぼ、質素で飾りけがないこと)であったため、志を得ないまま嘉永三年九月、四十九歳をもってこの世を去った。そして牛込赤城明神下の清隆寺の勝家代々の墓所に葬った。

 

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 母・お信については、

 母の信子は勝甚三郎の長女で惟寅を婿に迎えたが、もともと貧乏旗本の上に武骨一辺で世事にうとい夫に仕え、ずいぶん苦労した。言葉数少なく、家事のやりくりをしながら、和歌を嗜み、書をよくし、明治初年の国家の大難には、母上は落ち着いて、少しもあわて騒がず、大義の正しさを見失わず、一言も余計なことはいわず、私のすることを見守ってくれていた。この事は私の肺腑に深く刻んで忘れぬところである。その母は明治三年三月二十五日静岡県の地で病歿(びょうぼつ、病死)した。ああ哀しいかな。不肖男義邦謹んでその生歿のあらましをしるす云々。

とあります。

 

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 勝海舟と両親のエピソードは、番外編にまとめています。

 

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 放送開始前は、「このひねくれた自分でも、時代劇が楽しめるだろうか…」と心配していましたが、いざ放送が始まれば、毎週「お信かわいい!」と連呼する有り様でした。10代20代の若いお嬢さんではないのに、少女のように可憐で清楚で、常に周りに花でも舞ってんじゃないかっていうキラキラほんわかぶりでした。

 勝小吉も、自分が描いたのでは放送禁止男になりかねないところが、愛されおじさんになっていて良かった(いろんな意味で)。

 

 

 

 さて、

『小吉の女房』最終話「小吉、隠居して夢酔となる」の放送は、3月3日(日)、NHK総合にて18時05分から放送です!!

 小吉、お信、麟太郎その他の人々を、ぜひもう一度お楽しみください!