『夢酔独言』 九十九話 長生きすると息子が困る
36歳の夏、余りの素行の悪さに、小吉を檻に押し込めると決まったようです。
なぜか「檻へ入って断食して死ぬ!」と言い張る小吉と、「改心して檻へ入るのは許してもらえ」と説得する精一郎さん・お遊さん。
ここから「檻へ入る・入らない」の押し問答です。
『夢酔独言』原作のこのくだりは会話劇になっており、ほぼ原作通りです。
今回のお話は、小吉、精一郎さん(男谷精一郎、小吉の甥)、お遊さん(小吉の兄嫁)の3人が檻に入って喋る、というシチュエーション以外は、ほぼ原作通りです。
前回、夜に呼び出されて男谷家(小吉の実家)へ行った小吉は、お遊さんから「お前がケンカばかりするから檻に押し込めることになった」と聞かされます。で、庭に出て自分が入る檻を見学する小吉ですが、ここにきて、優しさからか、「改心して、家に帰りなさい」と言い出すお遊さんと精一郎さん。
ところが小吉は小吉で、「いや、もう今からここに入って断食して死ぬから!」と、訳の分からない強情をはります。
小吉「だんだん兄様が御心切(ごしんせつ)はありがとうございますが、今度はとうしんでもおこしらい被レ成(なされ)ばいいに。なぜというには、私も今度はいると最早出すと免しても出はしませぬ。其訳は、此節は、先本所で男立のようになってきまして、世間も広く、私を知らぬ物は人が馬鹿にするようになりましたから、この如くになると最早世の中へは面(かお)が出すことができませぬから、断食をして一日も早く死ます。かよう(斯様)だろうと思った故に、妻へも跡の事能能(よくよく)いいふくめてきました。思召次第になりましょう。精一郎さん、大小を渡します」
お遊さん「此うえは改心しろ」
小吉「此上に改心は出来ませぬ。気が違いはせぬ」
精一郎さん「御尤(ごもっとも)だが、身の上を慎め」
小吉「慎みようもない。最早親父が死んだから、頼みもないから、心願も疾くより止めた故、せめてしたいほどの事をして死のうとおもった故に、兄へ世話を掛て 気の毒だから今より直(すぐ)に爰(ここ)におりましょう」
精一郎さん「必ずおまえには食を断て死ぬだろうと私もおもった故、種々親父が機嫌を見合て留たが聞入ぬ故、こうなった」
小吉「何んでも兄の心がやすまるが肝要だから、おりへははいるが、おれはよかろうとおもった。先達てから友達がうすうす内通もして呉(くれ)た故、疾(はやく)より覚悟をしていたから、一向うに驚ぬ」
精一郎さん「なんにしろ先(まず)一度御宅へ御帰り被レ成(なされ)て、妻共相談しろ」
小吉「夫(それ)には及ばず。先にいう通り、何も内に気に懸る事はない。息子が十六だからおれはいん居をして早く死だがましだ。長いきをすると息子がこまるから。息子の事は何分頼」
※原作より現代仮名遣いで引用
どんだけ改心したくないんだ。
小吉は過去勝手に家出した罰で座敷牢に3年入っていたことがあり、同じ目にあうなら死んだほうがましだ、と本当に思っていたのかもしれません。
ただ、息子(麟太郎)の事だけは気懸かりなようすの小吉。
百話「地獄の淵から舞い戻ったぜ」に続きます。マンガ『夢酔独言』は全140話(ぐらい)。百話で主人公が死んだりはしないのだ!…とはいえ、ちょんまげ頭の小吉を見られるのは、百話までです。