『夢酔独言』 九十五話 小吉、詐欺師を騙す
小吉の友達から金を巻き上げ、姿をくらました「品用師」。話を聞いた小吉が、品用師の宿を訪ねます。
品用師に会ったこともない小吉でしたが、品用師の親玉をかたり、品用師を騙し返します。
前回、中村多仲という侍が、お寺に鏡を寄進するために集めていた12両を持って、姿を消します。皆から頼まれて多仲の行方を探る小吉ですが、手掛かりがつかめません。従弟に聞くと、それは「品用師」という詐欺師。一方、小吉の友達の長谷川寛次郎、今井三次郎が、斎藤監物という品用師に騙され、お金を取られてしまいました。
監物は袴をはいておれに出てあいさつをしたから、初ての名乗をして、いろいろ信心のはなしをしてから、中村多仲がわしが所〔へ〕くるというはなしをして、其上にて兼て(かねて)おまえは多仲御仲間よしは疾(はやく)より多仲より聞ていたが、とかくわしが世話敷て(せわしくて)尋もしないよしを尤(もっとも)らしくいったらば、赤面していたが、なにか小者へささやいたが、(中略)いろいろひんようのはなしをして、「多仲を毎度わしがつかったがいまは妙見の一条からは行衛としらぬ」と咄したら、「今は下総にいる」といったから、「おまえは仕かけがりっぱだから、さぞによい仕事ができるだろう」といってやったら、そこでようようひん用を白状して、「なんぞつかってくれ」といった。
※原作より、現代仮名遣いで引用。赤字が小吉、青字が監物のセリフ
内容は、だいたいマンガの通りです。
斎藤監物に、「中村多仲から話は聞いている、多仲はおれが使っていた」と話す小吉ですが、一連のセリフは嘘八百で、小吉が中村多仲と顔見知りだったかどうかも怪しいです。が、そのセリフで斎藤監物は悪事を白状し、小吉は「つけこんで(原文ママ)」金を取り返し、後日、監物からお土産をもらって小者をパシリに使います。どっちが悪党だかわかりません。
小吉が口先と勢いだけのハッタリで物事を解決するというのは今に始まったことでなく、21歳で家出した時に水戸の使いのフリをしてタダ飯と賄賂とタダ駕籠と豪華な川渡しをゲットしたり、甥っ子に悪知恵を教えた手紙でとがめられたら手紙は偽物だと言い張ってうっかり殺されそうになったりしています。
サブタイトルが軒並みヒドい…。
最後のページに登場している二人は、今までさんざん小吉に困らされてきた、小吉のお兄ちゃん達です。小吉、めちゃめちゃ目ぇ付けられてる…!
ちなみに「左衛門太郎」というのは、小吉の正式名称です。
九十六話「麟太郎、将軍の側近になる」に続きます。
麟太郎(後の勝海舟)がかつてお相手を務めていた初之丞様に、将軍になる可能性が出てきて、色めき立つ小吉。一方、浦賀にはイギリス船が来たという…。