『夢酔独言』 九十八話 二度と生きては帰るまい
素行を改めろと忠告されたのに、やっぱりケンカをしてしまった小吉。
36歳のある晩、実家の男谷家からお迎えが来て、行ってみると、みんな泣いている。話を聞くと、親戚一同相談のうえ、小吉を檻に入れることが決まったという…。
小吉と妻・信のやりとりは原作にはありませんが、男谷家に着いてからのくだりは、だいたい原作通りです。
この年夏、男谷から呼びによこしたから、妻へ跡の事、子供のことまでいいおいて、男谷へいったら、あによめ始みんなが涙て(ないて)いるから、精一郎が部屋へいったら、夫(それ)から姉がいうには、「左衛門太郎殿。おまえはなぜにそんなに心得違ばかりしなさる。お兄様が此間から世間容子を不レ残(のこらず)聞合てござったが、捨置ぬとて心配して、今度庭へおりを拵て(こしらえて)おまえを入るといいなさるから、いろいろみんなが留たが少しも聞かずして、きのう出来上ったからは、晩に呼にやっておし籠ると相談が極た(きまった)が、精一郎も留たが中々聞入がないからわたしも困っている」といって、おれに、「庭へ出て見ろ」というから出て見たら、…
原作より現代仮名遣いで引用
このお話に登場する姉さまとは小吉の兄・彦四郎燕斎の妻お遊で、精一郎とは男谷精一郎、小吉の甥になります。
「左衛門太郎」というのは小吉の正式名称で、男谷の家の人たちは、この名前で小吉を呼ぶことが多いです。
男谷家は、小吉の実家。
小吉は21歳の時に家出から帰った時も、罰として座敷牢に3年ぶち込まれています。
家族を檻に入れるなんて冷酷だと思われるかもしれませんが、当時は家族だからこそ、家名に傷を付けることはご法度。こうして檻に入れて罰したり、遠くへ逃がしたり、悪くすると病死ということにして、殺してしまった場合もあったそうです。それに比べれば、だいぶ寛大な処置と言えるでしょう。
かつて3年も閉じ込められたのに、またもや檻に入れられそうになる小吉。
九十九話「長生きすると息子が困る」に続きます。