『夢酔独言』 九十話 兄に殺されかける
甥っ子の正之助へ手紙を書いたことで、三郎右衛門さんを怒らせた小吉。偽筆ということにして何とか乗り切り、あとは大兄・彦四郎さんから手紙を待つばかり。
ところが、待機している小吉の命を狙う人物が…。
今から読み始めた方のために説明すると、手紙は本物で、小吉が偽物だと言っているだけです。
手紙を書いたことの何が悪いかというと、はっきり何とは原作に書かれていないのですが、甥っ子の正之助に、出張先で役に立つ悪知恵を吹き込んだことがまずかったらしいです。
「サザエさん」で例えると、カツオくん(小吉)がタラちゃん(正之助)に幼稚園でのさぼり方を教えたようなもんです。サザエさん(三郎右衛門さん)、超激怒です。
で、手紙の件は長男の彦四郎さんに報告、返事も来て、やれやれと帰ろうとしたところ…。
…其時甥めらは脇差をさして、次の間に不レ残(のこらず)結でいたから、帰り掛に甥等に向て、「おのしらは先達中のろふぜきの時、其通りの心掛をしたら、忠蔵はやみゝゝと殺(ころされ)はしまへもの。其時はにげて、伯父をば取廻ひた。馬鹿にもほどのあるものだ。が、御親父様の子供への御教示かんしんした」といつて笑て帰たが、内中がくやしがつたと、其後聞いたよ。
小吉、危うく殺されるところでした。
甥たちが残らず居たということは、小吉が手紙を出した 正之助も、その中にいたということ。
※「先達中のろふぜき…忠蔵はやみゝゝと殺はしまへもの」とは、この前年の正月、三郎右衛門さんの後継ぎの忠蔵が殺された事件を指します。
そもそもこの三郎右衛門さん、お金の貸し借りで小吉ともめて、10年ほど絶交していたところ、自分から仲直りを小吉に持ちかけてきたばかりでした。やはりというか、根本的に小吉とは性格が合わなかったようです。
その後、相変わらず好き勝手に生きる小吉ですが、三郎右衛門さん、めちゃめちゃ根に持ってます。どうなることやら。
九十一話「その名を知らぬ者はない」に続きます。小吉が吉原の仮宅で大ゲンカをします。