『夢酔独言』 七十六話 女房の乱心
時は少しさかのぼって、小吉が28歳頃のお話です。
ある時、よその武士の妻に惚れた小吉。自分の妻・信に「その女をもらってやろう」と言われ、大喜び。ところが、当然ながら信は怒っていたのだった。
喧嘩になり、信に短刀を渡して外へ遊びに出掛ける小吉。会う祈禱師・易者に女難の相を言い当てられる。小吉が慌てて家へ帰ると、信は書き置きをして家を出るところだった…。
マンガ版『夢酔独言』は、なるべく時系列順にエピソードを構成しているんですが、前回までの息子の看病のエピソードで少しいい感じになってしまったので、小吉の好感度を全力で下げるお話を持ってきました。原作では、思い出したように、最後の方に書かれています。こういうダメなところも含めて小吉は面白いんですけども、まあ、クズ野郎です。
おれが山口へいた内だが、或女にほれてこまつた事があつたが、其時におれが女房が、「其の女を貰てやろふ」といゝおるから頼んだらば、「私へ暇をくれ」といふから、「夫(それ)はなぜだ」といつたら、「女の内へ私が参つて、是非とも貰ゐますが、先も武士だから、挨拶が悪ゐと私が死で、もらゐますから」といつた。
其時に短刀を女房へ渡したが、「今晩参りて急度(きっと)連てくる」といふから、おれは外へ遊びにいつたらば、…
ここでおさらいすると、小吉は7歳の時勝の家に養子に入ったので、当時5歳だった信と、20年は一緒にいます。
その妻の信に、不倫の相手までガッツリばれている小吉。信は「その女をもらってやろう」と言いますが、もちろん喜んでではありません。そんな信に、
・その女をもらってやろう→頼む
・挨拶が悪いと死にます→短刀を渡す
・今晩もらって来る→それまで遊んでくる
と、小吉はなかなか無邪気な対応をします。
そしてなんやかんやあって元に治まるのですが、このエピソードはこう締めくくられています。
是迄(これまで)度々女房にも助けられた事も有た。
夫(それ)からは不便(ふびん)を懸てやつたが、夫(それ)までは一日でもおれにたゝかれぬといふ事はなかつた。この四、五年、にはかに病身になつたも、其せいかもしれぬとおもふから、隠居様のようにしておくは。
…毎日妻を叩いていたという事実はこの際置いといて、小吉が誰かに対して「助けられた」と書くのはなかなか無いことです。自覚があるくらい、よっぽど信には助けられたのでしょう。
今までの文章を見るに、思いやりなんか一匁も持ってない小吉ですが、「思いやるってこんな感じかなあ?」みたいな不器用さが、最後の一文ににじみ出ています。
七十七話「 利平の死」に続きます。
利平は小吉が幼少の頃、男谷の家の用人だったおじいちゃんです。しんみりします。
原作では信がメインのエピソードはこれだけですが、その信がなんと、この度ドラマで主人公をやります!主演は沢口靖子さん!小吉役は古田新太さん!わーい!
このドラマには個人的な因縁がありまして、このドラマがこの時期放送でなかったら、このブログも始めてないことでしょう。それについて詳しくはこちら↓
※この時期ブログ始めたてで余りにアクセスがなかったので、タイトルのテンションがおかしくなってますね。
かいつまんで説明すると、
『夢酔独言』面白い!マンガ化しよう!
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2023年は小吉の息子(勝海舟)の生誕200周年だからそれに向けて小吉を宣伝だ!
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2019年に妻が先にドラマ化
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ガーン!でも妻が主人公だからセーフ!せめて放送開始前にマンガを全部公開するぞ!
という感じです。『夢酔独言』のドラマ化だったら心が折れてました。危ない危ない。