『夢酔独言』 二十七話 吉原デビュー
知り合いの侍にへ連れて行かれ、16歳で吉原へ初めて行った小吉。「面白いから」と毎日吉原へ通うが、当然、遊ぶにもお金がかかる。
そんな時、兄の勤めるお役所に年貢の金が来た。
これは、盗んで使うしかないぜ!
この主人公には、良識とか分別とか、そういったものはないんでしょうか。もちろん、そんなもの無いほうが話は面白くなります。
兄きの役所詰に久保島可六といふ男があつたが、そいつがおれをだまかして吉原へ連れてゆきおつたが、おもしろかつたから、毎ばんゝゝいつたが、かねがなくつて困つて居ると、信州の御料所から御年貢の金が七千両きた。(中略)番をしていると、可六がいふには、「かねがなくつては吉原は面白くないから百両斗り(ばかり)ぬすめ」と教へたら(から)、おれも、「尤も(もっとも)だ」といつて、千両箱をあけ、弐百両とつたが、跡がかたかたする故こまつたら、久保島が石ころを紙に包んでいれてくれた故、しらぬ顔でいたが、…
それにしても、吉原に行く金に困って年貢を盗むとか、ベタ過ぎて逆に誰もやらないタイプの筋書きです。で、お父さんも同じようなことやってたという…。現代人からすると「そんなことして死罪とかになんないの!?」と思いますが、ならなかったどころか、隠蔽してやり過ごしていたようです。あと、二百両は全然わずかの金ではないです。江戸後期の役人の腐敗とか、年取ってからできた子供はかわいい、とかそういうことですね。
ちなみに、
「銭」は主に穴の開いた小銭を指し、
「銀」は丁銀、豆板などを指し、
「金(きん)」は大判・小判を指していたようです。
「金(かね)」は金銀銭をひっくるめた貨幣全体を指していました。
『夢酔独言』の中でも、銭は「一文銭(いちもんせん)」、金は「一両金(いちりょうきん)」と表現しています。
二十八話に続きます。