土曜時代ドラマ『小吉の女房二2』の地上波放送が始まったので、BS放送当時に描いた感想&『夢酔独言』的解説記事を公開し直します。内容はBS放送時のものです。ネタバレがおおいにあるので、ドラマを観た後で読んでくださいね。 第四回「麟太郎、ナポレオンと出会う」は、1月29日土曜日18:05~、NHK総合にて放送です!
勝海舟の父・小吉の妻のお信が主人公のドラマ『小吉の女房2』。
この記事では、ドラマの微々たる感想と、勝小吉自伝『夢酔独言』目線で、ドラマの解説をいたします。
ネタバレあり。
なお、いつもBSが映るはやおきの実家で観ているのですが、今回に限って母親が食器洗いの真っ最中で、前半のセリフを聞き逃したりしていますがご容赦ください。
・第四回「麟太郎、ナポレオンと出会う」あらすじ
世は天保の改革、庶民に奢侈を禁じる厳しすぎる政治に江戸の街は疲弊し、お信(沢口靖子)の周りにも被害をもらたしていた。成長した麟太郎(稲葉友)は芸者のお民(大西礼芳)や火消しの頭・新門辰五郎(市川右團次)と知り合い見聞を広め、改革を憂いていた。麟太郎は小吉(古田新太)の友人・都甲斧太郎(風間杜夫)という風変わりな蘭学者に弟子入り、庶民から出世したナポレオンの存在を知るなど、蘭学に傾倒していく。
※NHKホームページより引用
・感想
・麟太郎がおっきくなってる
・なつかしの「石原おこし」登場
・お信がいつになくしんみり
・『夢酔独言』的解説
※いよいよ今回から、勝小吉著『夢酔独言』に登場する内容がなくなってきましたが、 幸いマンガ『夢酔独言』に、麟太郎(勝海舟)絡みで該当する箇所がいくつかあるので、そっち方面で解説いたします。なお、出典は主に、勝海舟の発言をまとめた『氷川清話』です。
天保十三年(西暦1842)三月。お信(沢口靖子さん)39歳、小吉(古田新太さん)41歳、麟太郎(稲葉友さん)20歳、お順(稲垣来泉さん)7歳です。
今回から、麟太郎が急にでっかくなっています。
冒頭は、いつものお信の「家内円満、無病息災」のセリフと、小吉と麟太郎のラジオ体操&放屁で始まります。
前回までは、本所入江町に住んでいた小吉一家ですが、今回から、虎の門での生活となります。家は麟太郎と同役(小普請組)の保科さんという人の家なのですが、この家について、後に勝海舟(麟太郎)は、
その同役の家というのは、たった二間だったが、その狭いところで同居したこともあったよ。
※『氷川清話』よりはやおきによる現代仮名遣いで引用
と語っています。
世は天保の改革で、庶民に贅沢禁止が強いられていました。豆腐のサイズも決められていたとか…。
麟太郎は剣術の稽古に出掛け、小吉はいつの間にか外出。残されたお信は、「御休処」との文字を看板(ミニサイズ)をしたためます。実際の信も、書をたしなんでいました。
お信は看板を、溜池にあるお徳さんという人の茶屋に届けます。このお徳さん、以前は髪結いをしていたそうですが、女の髪結いはご法度となったため、休業中とのことでした。
一方浅草新堀の島田虎之助さんの道場では、麟太郎が、剣術の稽古に励みます。
麟太郎の剣術の流派は直心影流(じきしんかげりゅう)で、これは父親の小吉や、従兄の男谷精一郎さんと同じです。島田虎之助さんは男谷道場に弟子入りし、免許皆伝となって、道場を構えたのでした。
稽古後恒例の、時勢についての会話をする麟太郎と島田さん。「天保の改革は愚策」と世相を斬る麟太郎ですが、 今の自分にはどうすることもできないと、もどかしさをにじませます。
そんな麟太郎に、「今は人間の土台をつくる時(by島田さん)」「腹をつくれ(by小吉)」とフワッとした助言を言する大人たちですが…。
小吉の「腹をつくれ」発言については、似たような内容が、『氷川清話』にあります。
漫画ではここ。
さて、溜池から家へ帰るお信ですが、後から誰かがついてきます。「ついてくる」とデカめのひとり言を言うお信…振り返ると、怪しい男が…と思ったら、都甲斧太郎(つこうおのたろう・風間杜夫さん)という、小吉の知り合いでした。
お信を見て、「この毛並み…そして瞳…名馬じゃ」と、何故か馬に例えます(伏線)。
一方麟太郎は稽古を終えて帰宅途中、こちらはあからさまにガラの悪い男達が、娘二人に絡んでいるところに出くわします。何でも、男にぶつかった娘Aに難癖をつけていたところ、娘B(文吉という深川芸者)が割って入ったとのこと。一触即発…というところへ、「を組」の半纏を着た新門辰五郎(市川右團次さん)現れ、ガラの悪い男達は退散していきます。
この新門辰五郎さん、おそらく最終回あたりでまた登場する伏線のために出てきたと思われます。
娘Aはいつの間にかいなくなり、芸者の文吉にお礼を言われる麟太郎。「あっ、あっ…うん…」と挙動不審ぎみに答える麟太郎、何かの伏線ですね。
麟太郎が帰宅すると、勝家に都甲斧太郎先生が。人をやたらと馬に例える都甲先生でしたが、どうやら元は公方様の馬医だったようです。
「あの有名な都甲斧太郎先生…!」と、ひとしきり都甲先生について語る麟太郎。
このくだりは、『氷川清話』に収録されています。
ことに馬の腹中に石の出来る病がある。これはいかにしても従来の療治にては癒えざるものとしてあった。しかるに都甲先生の見たる書物にその病には亜剌比亜護謨(アラビアゴム)を薄く溶解して、これを馬に服用させれば治癒するということが書いてあった。
都甲先生の馬の治療法を、なぜ他の医者はやらないのかという麟太郎の問いに、都甲先生は「うちへおいで」と答えます。
「本を読むよりケンカの方が面白い」などど言う小吉は置いておいて、麟太郎は麻布狸穴の都甲先生宅を訪ねます。
この麻布狸穴は、麟太郎の従兄の男谷精一郎さんが、道場を開いた場所でもあります。
都甲先生宅で、お手製ビールをご馳走になる麟太郎。
都甲先生宅には、洋書がたくさん置いてあります。当然、麟太郎には読めません。
「洋書は知識の宝庫だ。しかし幕府はこれを閉め出そうとしている。このままではこの国は食いつぶされるか、内乱になる」と語る都甲先生。
常に先生が私に向かって、今日のごとき制度にては所詮この国を維持することあたわずして、ついには外国に降服せざるべからざるの悲境におちいるであろう、しかるにもし強いて今日の制度を維持せんとする時は早晩内乱をかもして、一時は凄憺たる有り様になるに違いない、故に今日ねあたり誠心誠意に西洋の事情を攻究するはもっとも必要のことであるが、うらむらくはこれを攻究する人に乏しいと言って、平生嘆息しておられた。
「しかし無役の私では…」と弱気な麟太郎に、都甲先生はナポレオンの伝記を手渡し、「ナポレオンも元は一人の兵士だったが、王になった」と励まします。
そして麟太郎は都甲先生に弟子入り志願し、蘭語(オランダ語)の読み方を教えてもらうことになったのでした。
都甲斧太郎先生の話はこちら↓
帰宅後、蘭語辞書で勉強する麟太郎。その姿に、お信は一抹の不安を覚えるのでした…。
それから、巾着切りの銀次がなつかし(シーズン1に登場した)の「石原おこし」を持って来たり、それをお信がお徳さんへの手土産に流用したうえ「こんなものしかなくて…」呼ばわりしますがそれは置いといて、お徳さんの身に衝撃の展開が。
お信はすっかりしょげてしまいます。
そんなお信に、麟太郎は「VRIJHEID(フレイへイド)=融通無碍・自由」を説きます。そして「世の中をもっと住みよいところにしたい」と語ります。
最後に、平河天神にて、麟太郎の学問成就を祈願する二人。
「西洋のことを日本の神様には祈願できない」と言う麟太郎に、「天神様が西洋の神様に取り次いでくれますよ」とお信。何て厚かましいスケールがでかいんだ!
今回は、お信がしんみりしてしまった回でしたが、また今後の麟太郎の活躍で(小吉にはあんまり期待できない)、ホンワカさを取り戻してほしいものです。
今回、お話に登場する地名を手元の江戸時代の地図で探しましたら、どうやら近所にかたまっていました。
左から、都甲斧太郎宅がある麻布狸穴、勝家が押し込められた虎の門、お徳さんの茶屋があった溜池、お信と麟太郎がお参りした平河天神です。
ドラマでは新門辰五郎さんや都甲斧太郎先生は小吉の知り合いということになっていますが、その記録は、はやおきが知る限りはありません。しかし、お二人の年代からしても、成立しうる話です。
ちなみに麟太郎と出会った時(嘉永元年説が有力)、都甲先生は66歳だったそうです。
第五回「お信、娘義太夫になる」は、4月30日(金) 20:00~、BSプレミアムにて放送です!
あらすじはこちら↓
…いよいよ解説することがなくなってきそうだぞ…。
お楽しみに!
NHK総合にて、再放送が始まりました。
第五回「お信、娘義太夫になる」は、2月26日土曜日18:05~放送です!
※今回はブログ更新をすっかり忘れていたのですでに放送されてしまいましたが、次回からは早めに何とかしますm(_ _)m