牡丹は中国原産の花で、聖武天皇の時代に渡来したと言われ、古くは『枕草子』に名前が登場します。庶民の園芸用として普及したのは江戸時代で、それまでは主に貴族や寺院によって栽培されてきました。
もともとは薬用として輸入されましたが、花の美しさから、観賞用として日本で親しまれてきた花です。
開花時期は4~6月、初夏を表す花です。冬に咲く品種もあります。
模様としての牡丹は、単体で華やかさと、春~夏を表すモチーフとして使われます。また、獅子(しし)との組み合わせで、能の曲目「石橋(しゃっきょう)」を表します。後者は、おめでたい和柄として親しまれました。
明治期の縮緬など、高級素材に多色刷りで使われることが多く、単色刷りでは、あまり多種多様に使われているイメージはありません。
この記事では、古典的な模様として江戸~大正時代の牡丹の和柄を紹介します。
よく似ている、牡丹と菊の見分け方も。
●牡丹と菊の和柄の見分け方
・牡丹
大きな花。花弁の幅が広く、先端が内側に丸まってひらひらしている。花びらに筋が描かれる場合が多い。花の色は、たいてい赤か白。
葉は三つに分かれていて、先がとがっている。
季節は春~夏。
・菊
基本、大きな花だが、小菊もある。花弁は細く、先端が丸まっている。たいてい八重咲きで、主に丸まったパターンと、開いているパターンの2つ。小菊は一重咲き。花の色は赤、白、黄のほか、青や紫に塗られたりと、さまざま。
葉は3~5つに分かれ、先端は丸い。
季節は秋だが、季節を問わず幅広く使われる。
こちらは、菊の周りに牡丹の図。実際の大きさ比は逆。菊が主役なので、大きく描かれています。
・型染木綿、霞に牡丹と柳
江戸〜明治時代あたりの古布です。非常に江戸っぽい。
霞と柳は、星雲と流れ星にも見えます。宇宙に咲く牡丹。
・型染木綿、牡丹に扇と兎
兎特集の記事にも登場した布。
兎と牡丹、かわいく華やかな組み合わせ。
・型染木綿、流水に牡丹と車
写実的な牡丹と流水に、紋様的な車輪。
白、青、黒の組み合わせが、清涼感を醸し出しています。
・牡丹(一部)
デフォルメされた牡丹。簡略化された牡丹は、中心に3枚の花びらが巻いているように表現されることが多いです。
梅、桜、菊などと一緒に、季節の花として描かれています。
・牡丹(一部2)
簡略化された牡丹2。ちょっと写実寄り。こちらも、季節の花とともに。
・型染木綿、柳と藤絞りに牡丹
オーソドックスな牡丹。四角の中も牡丹です。
・消しゴムはんこ、白抜き牡丹
浮世絵に登場する着物より再現。豪華絢爛が定番の牡丹にしては珍しい、シンプルでシックな模様。
・消しゴムはんこ、石橋(しゃっきょう)
能の曲目「石橋(しゃっきょう)」に登場する、獅子(しし)と牡丹の、定番の組み合わせです。
石橋は、五番構成の能の演目の最後に演じられる、おめでたい祝言能。
こちらは、簡略化したモチーフの組み合わせで、石橋を表現したもの。グルグルとフサフサで、獅子の尻尾を表しています。