『夢酔独言』 四十八話 おれは水戸の使い
二度目の家出中の小吉、箱根の関所を越え、三島宿へ入ります。ところが三島宿では、お代官のお触れで一人旅は宿泊禁止。
困った小吉は、宿の役人相手にハッタリをかまし、タダ飯、タダ駕籠、袖の下(お金)をまんまと手に入れます。そのハッタリとは?
家出から一日経って、5月29日です。
この日付にピンとくる方は『夢酔独言』通!
7年前の5月28日、小吉は江戸を出ました。5月、6月は単純に気候が良い気はしますが、なぜ同じ日を選んだかは謎です。
江戸時代の人なので、一日で藤沢から三島まで踏破します。健脚。
小吉が途中、雪駄を脱ぐくだりがありますが、描いた当時は理由がわからなかったんですが、関所を越える時は江戸から急に来たふりをするため雪駄ばきで、その後問屋場に行くときは、水戸の使いのふりをするため草鞋か何かに履き替えたんでは、と最近では推測しています。
そこでおれがいふには、「海道筋みしま宿にては水戸のはりまの守(かみ)が家来はとめぬか。おれは御用の儀があつて、遠州雨の宮へ御祈願の使にゆくのだが、しかたがなゐから、是(これ)より引返して、道中奉行へ掛け合う故、夫迄(それまで)は御用物は問屋へ預けおくから大切にしろ」とつてけいこ道具を障子越しになげこんだ。
どこから湧いた話なのか、縁もゆかりもない水戸の播磨守の家来のふりをして、「泊めろ」とごねる小吉。水戸の小絵符(偽物)を見せて信じ込ませ、役人の宿舎に上げてもらい、タダ飯を食らったうえでさらにゴネてお金をまき上げます。そして駕籠を出してもらって(もちろん費用は相手持ち)、寝ながら次の宿を目指します。計画的かつ悪質・大胆な犯行!
四十九話に続きます。