『夢酔独言』 四十七話 七年ぶりの箱根
21歳になった小吉は、相も変わらずケンカと他流試合に明け暮れ、借金のし過ぎで無一文に。現実逃避に吉原通いを続けていましたが、ついに東海道へ高飛びします。
小田原で懐かしい人に会いに行き、盗んだ金を返して箱根の関所へ。14歳の家出の時同様、通行手形は持ってない。小吉、どうする?
前回のオリジナル回でまいた種(女房の布団を質に入れる)は、1ページ目で素早く回収です。
それはさておき、
①親がくれた刀を質に入れる
②相弟子から借金をする
というダメ人間らしい手法でお金を貯めた小吉。その後マンガの通り東海道へ駆け出すわけですが、なぜかその前に吉原へ行きます。景気づけなのかお金がないから我慢してたのか、もしかしたら二度と帰れないことも考えて行ったのかもしれません。小吉は吉原が大好きなのです。
ところで、さらっと江戸を出ている小吉ですが、武士の無断の遠出はご法度です。
そして、一回目の家出でお世話になったうえお金を盗んで逃げた小田原の漁師、喜平次が再び登場。
どの面下げて会いに行ってるんでしょうか。そんな小吉を歓迎してくれる喜平次さん。金を盗んだことにつけこんでゆすり・たかりするような人じゃなくて助かりました。
路上で寝ている小吉を拾ったようなものですから、お金を盗んで失踪するのもやむなし、という感覚だったのかもしれません。
…喜平の内を出た亀だといつたら、漸々(ようよう)思ひ出して、いろいろ酒なぞふるまつたが、三百文ぬすんだことをいゝ出して、金を弐分弐朱やつた。外(ほか)に酒代を弐朱出して、以前船へ一所に乗つた野郎共をよんで、酒を呑して(のまして)、今は剣術遣ひになつたことを咄(はなし)て笑つたら、みんなが肝をつぶしていた。
ここでお金の計算をします。
小吉が江戸から持ってきたのは三両二分。喜平次の家で出した二分二朱+三朱=三分一朱を引くと、残り二両二分三朱になりました。※マンガ中の注釈の計算式を用いました。計算は得意でないんで、だいたいの目安と思ってください。
江戸時代は、お金の相場がひんぱんに変わっていたために、小吉がその時使った一両の価値はいくら、というのは厳密にはわかりません。ただ、後のくだりに「四文の銭にも困った」という文言があり、四文=100円で、ちょっと計算してみました。
三百文=7500円
一朱=約240文=6000円
一分=4朱=24000円
一両=4分=96000円
この計算で、小吉が二十七話(16歳の時)で盗んで一か月で吉原に使った金額は…。
二百両=19,200,000円=いっせんきゅうひゃくにじゅうまんえん!
一日約640,000円!
18歳の時に、お兄ちゃんにチャラにしてもらった借金三百両は…。
28,800,000円=にせんはっぴゃくはちじゅうまんえん!!
高校生の使う金額じゃねーぞ!!
どういう世界観だ…。
なんとなく「一両=一万円」くらいの感覚でいましたが、あらためて計算すると、どえらい金額になりました。ちなみに16歳の時は、七千両来た年貢のうち、二百両を盗んでいます。
まあそんなことはいいんですが、三枚橋まで見送られた小吉は、道を引き返して箱根の関所に向かいます。これは追っ手をまくためだと思われます。
…剣術修行に出し由(よし)申、「御関所を通ふし被レ下(くだされ)」といつたら、「手形を見せろ」といふから、そこでおれがいふには、「御覧の通り、江戸をあるく通りのなり故、手形は心づかず。けいこ先より風と(ふと)おもひ付て、上方へ修行にのぼり候。雪踏(せった)をはき候まゝ旅支度もいたさず参りし事故、あいなるべくは御通し被レ下候様に」といつたら、番頭らしきがいふには、「御大法にて手形なき者は通さず。しかし御手前の仰せの如く、御修行とあれば無二余儀一故(余儀なき故)、御通し可レ申(申され)。以来は御心得可レ被レ成(なさるべし)」といつた故、…
急に漢文が出てきますが、気にしないでください。「おれがいふには、『…』といつたら、」という言い回しがありますが、それもいつものことなので気にしないでください。
「江戸で稽古してたら急に思いついて、上方に修行に行きたくなっちゃった!着の身着のままだから手形も忘れたけど通して!」と、怪しすぎる言い分で関所を通ろうとする小吉。関所の人も、「修行ならしょうがない!次から気を付けてね!」と通してくれます。ユル過ぎる…。
マンガの通り、箱根の山道は石が敷いてありました。
「おれは殿様だから」というセリフは、原作通りです。何言ってんだ。
四十八話に続きます。