勝小吉自伝『夢酔独言』より、小吉14歳、一度目の家出エピソード最終回です。
帰宅した小吉のその後です。崖から落ちたのがじわじわ効いてきたり、息子が生まれてないのに隠居させられそうになります。
※今回、試しにやってみたら意外と出来たので、デジタルでトーンを貼ってみました。その時々によって、貼ったり貼ってなかったりしますが…。
三日目に朝早く起きて、家へ帰ったが、家中、
「小吉が帰った」
と言って大騒ぎをし、おれは部屋へ入って寝たが、十日ばかりは寝通しをした。
おれが居ないうちは、加持祈禱いろいろとして従弟女の恵山という比丘は上方まで訪ねて上ったとて話した。
※はやおきによる現代仮名遣いで引用
前回、江戸での潜伏生活の最後に深川の材木問屋の河岸で寝ていた小吉ですが、ついに亀沢町の家へ帰ります。原作『夢酔独言』では「朝早く起きて」となっていますが、勝小吉もう一つの著作『平子龍先生遺事』では、「夜中に実家方へ帰りけり」とあります。
この頃、勝家の二人(小吉の姑にあたるお婆様と、孫娘のお信)は小吉の実家である男谷家に同居していました(小吉9歳の年のくだりに、「おれがいる処は表のほふだが、はじめてばゝどのと一所になつた」とある)。
サラッと名前が出てきますが、小吉を上方(かみがた)まで捜しに行った「恵山」という人は、小吉のお爺ちゃんである米山検校さんの長男の妻と同じ名前なので、もしかしたら同一人物かもしれません(どっかの資料で読んだけど、どれだったか忘れた)。
それから医者が来て、腰下に何と仔細があろうとていろいろ言ったが、その時はまた金玉が崩れていたが、強情に、
「ない」
と言って隠してしまったが、み月ばかり経つと、湿ができてだんだん大層になった。起き居もできぬようになって、二年ばかりは外へも行かず、家住まいをしたよ。
それから親父が、おれの頭(かしら)の石川右近将監に、帰りしよしを言って、
「いかにも恐れ入ること故に小吉は隠居させ、他に養子をいたすべき」
と言ったら、石川殿が、
「今月帰らぬと月切れ故、家は断絶するが、まずまず帰ってめでたい。それには及ばぬ。年取りて改心すれば、お役にもたつべし。よくよく手当てしてつかわすべし」
とて言われた。それで一同安心した、と皆が話した。
怒涛の急展開…!箱根の崖から転落して岩の角でぶつけた金玉が崩れ、それをお医者さんに隠してたら湿(しつ…疥癬。皮膚病の一種で、ヒゼンダニにより感染する)が悪化して2年間寝たきりになってしまい、隠居させられそうになってしまいます。でも意外とフランクに許してもらえます。よかったね。
※このくだりの「月切」というのがよく分からないんですが、お家断絶が絡んでいるところを見ると、当主が一定期間行方不明だと、断絶しちゃう的なシステムと思います。二度目の家出でも五月二十八日出発なので(ネタバレ)、五月二十八日が何か特殊な日なのかもしれません。
勝小吉もう一つの著作『平子龍先生遺事』では、帰宅後のバタバタまでは書かれておらず、一度目の家出のくだりは、こんな感じで締めくくられています。
五月末家出し、閏八月十九日に帰宅しぬと申しければ、(平山行蔵)先生大いに悦び、誠に足下(あなた)は大丈夫なり。胆がすわり宜しき者なり。
日付の記述を信用すると、小田原の喜平次(二十二話参照)の家を出たのが閏八月二日なので、それから17日間、江戸で潜伏生活を送っていたことになりますね。
ところで、原作で散々「閏八月」と言ってますが、小吉が一度目の家出をした文化十二年(西暦1815)には閏月は無くて、実際に閏八月があるのは翌年なのです。
「閏八月」も「おれが十四の年(意訳)」も同じくらい堂々と言ってるので困りましたが、どっちが間違いでも漫画のストーリー的に大した問題はないので、そこはそのままにしました。
それより小吉が16歳の年に信州に居るはずのお兄ちゃん(男谷彦四郎さん)が江戸に居るとかそのへんのつじつま合わせの方をどないするんじゃいと思いましたが、このへんは、こちらの記事でとりあえずの結論を出しています。
二十六話へ続きます。
二十五話最後のコマにあるように、時はブッ飛んで文化十四年(西暦1817)、小吉16歳からのスタートになります。小吉が初めて吉原へ行きます。
お楽しみに!
※漫画のペン入れは一旦お休みして、一話目をデジタル仕上げ用に描き直したり(既存の一話目はアナログトーンを貼っちゃってるので)、子供編・家出編の仕上げをしてまとめたり、原作の訳とかもしてみたい(&デジタル作業に慣れてない)ので、小吉が寝込んでる間くらい期間が開いてしまうかもしれません。できれば1年以内に二十六話を描き始められればと思います。
【そしてお知らせ】
前々からうっすら思ってたんですが、今まで通り原作を現代仮名遣いで引用し続けると、いつしか原作丸ごと引用してしまうので(自慢ですが原作に忠実なんで端折ってる箇所がほぼ無いので)、次回からははやおきによる現代語訳で原作の内容を引用する予定です。皆様原作を読むのだ…面白いから!