『夢酔独言』 百三十一話 父のあきらめ、息子の功名心
いよいよ『夢酔独言』を書き始める父・夢酔(=小吉)と、色欲と功名心に駆られる息子・麟太郎、それぞれの新生活です。
今回のお話は、前半が勝海舟の言葉集『氷川清話』、後半が勝小吉の自伝『夢酔独言』構成でお送りします。
【前回までのおさらい】
18歳の時、剣術の師匠・島田虎之助のすすめで座禅を始めた麟太郎(後の勝海舟)。初めは和尚に叩かれて、ひっくり返るばかりだった。そんな折、万国地図を初めて見て、蘭学を修業したいと思うようになる。
若い頃のやり損いは、たいがい色欲からくるので孔子も「これを戒むること色にあり」と言われたが、実にその通りだ。しかしながら、若い時には、この色欲を無理に抑えようとしたって、それはなかなか押さえつけられるものではない。ところがまた、若い時分に一番盛んなのは、功名心であるから、この功名心という火の手を利用して、一方の色欲を焼き尽くすことが出来ればはなはだ妙だ。そこで、情欲が盛んに発動してきたときに、じっと気を鎮めて、英雄豪傑の伝を見る。そうするといつの間にやら、だんだん功名心は駆られて、専心一意、他のことは考えないようになってくる。こうなってくれば、もうしめたものだ。
だんだん修業が積むと、少しも驚かなくなって、例のごとく肩を叩かれても、ただわずか目を開いて見るくらいのところに達した。
※『氷川清話』より現代仮名遣いで引用
一方夢酔(=小吉)は40歳の時、大病のうえ天保の改革で押込めとなり、元の家を二束三文で売って引っ越します。
大病故駕籠で虎の門まで来たが、ようよう41歳の夏ごろ全快した。そうすると、もともと住んでいた本所でおれが貸した道具も金も、皆が何もよこさないようになった。おれは不意に押込め先へ来てあても何もないままいたから、今は貧乏して困るが、仕方がないとようよう諦めた。
※『夢酔独言』よりはやおき訳で引用
地元(本所)で威勢をふるっていた小吉ですが、その威勢が処罰の対象になって引っ越したため、今まで従っていた人達に、手のひらを返される状況に…。
マンガでは、救済措置として、今までないがしろにばかりしてきた妻・信に、少し歩み寄らせました。
一方、麟太郎に新しい出会いがあります。
薪炭屋兼質屋の娘・民、彼女は後に、麟太郎の妻になるのでした。
百三十二話「決しておれの真似をばしないがいい」に続きます。
『夢酔独言』晩年編最終回です。今までさんざんアウトローに次ぐアウトローを重ねて来た小吉ですが、その総決算やいかに。