『夢酔独言』 百話 地獄の淵から舞い戻ったぜ
「改心するぐらいなら断食して死ぬ!息子のことは何分頼む」とゴネる小吉と、「いったん家に帰れ」という兄嫁の攻防の末、いったん家へ帰る小吉。しかし、いずれ迎えはやって来る…。
小吉と妻・信の(小吉隠居前の)、最後の会話です。
小吉が家に帰ってからの妻・信とのやりとりはフィクションですが、冒頭と後半は原作通りです。
…其内に姉が来て、「一先内へ帰れ」というから、夫(それ)から内へもどったら、夜五つまで呼びにくるかとまっていたが、一向う沙汰がないから、其晩は吉原へいって翌日帰った。
夫(それ)から、「兄へただでは済ぬから書付をだせ」というから、夫(それ)もしなかった。姉がいろいろ心配をして諸山へ祈禱なぞ頼だということを聞いたから、翌年春、姉へ挨拶安心の為、隠居したが、三十七の年だ。
そういうことばっかりするから檻に入れられそうになったというのに、吉原へ行って一泊するわ、お兄ちゃんへ反省文は出さないわで、やりたい放題です。
小吉は無一文で困って気を紛らわすために吉原へ行ったり、家出の前夜に吉原に行ったりと、困ったらとりあえず吉原へ行く悪癖があるようです。ちなみに、武士の無断外泊はご法度です。めっちゃ違反してます。
そんな小吉も、兄嫁のお遊さんが心配していると聞いて、仕方なく隠居します。
時代劇などで「隠居」という言葉をよく聞きますが、手元の広辞苑(電子辞書)によると、
家長が官職を辞しまたは家督を譲って引退すること
とあります。
「家督(かとく)」とは、
戸主の身分に付随するすべての権利・義務。戸主の地位
ここでは、小吉が家督を長男の麟太郎に譲り、麟太郎が新しく勝家の戸主になるということになります。
ただ、そう簡単に「じゃ、ゆずります」と言って譲れるものでなく、小吉は自分が所属している小普請組(こぶしんぐみ)の頭(かしら)へ届を出して、許可が下りれば正式に隠居となります。『夢酔独言』によると、37歳の7月に届けを出して、10月に許可が下りたとあります(九十六話で隠居の願いを出したと早まって書いてしまいましたが、間違いです)。
この隠居システム、1947年で廃止されるまで行われていたようです。
マンガ『夢酔独言』壮年編は、これでおしまいです。
次回から「隠居編」スタートです。
百一話「小吉の乱心」に続きます。今までは乱心でなかったかのようなサブタイトル…!