『夢酔独言』 百四話 千両博奕
友達の諏訪部さんから、大金が入る博打に行くから、用心棒をしてほしいと頼まれた小吉。 頼み事をされると二つ返事で「よかろう」な小吉ですが、大嫌いな博打に行くとなれば、話は別です。同行を断りますが…。
勝海舟が若い頃、つまり江戸後期~幕末頃は、小吉のような旗本(1万石以下の直参で、御目見え以上だった武士)の間で、表向きは禁止だったにもかかわらず博奕が大流行していました。海舟の家の周りはみんな博奕をしていて、博奕が許可されるなら給金はいらないという者までいたそうです。
そんな中、小吉はどういうわけか博奕が大嫌いでした。息子の勝海舟も、「親父が嫌いだったせいか、幼い時からバクチはごく嫌いだった」と言うほど。ここで言う「博奕」とは、主にサイコロを使って大勢でやる丁半博奕を指します。小吉は当籤番号を当てる「富くじ」は楽しんでいたらしく、何回も当てた、と『夢酔独言』で自慢しています。
このお話に登場する「狐博奕(きつねばくち)」が、具体的にどういう博奕なのかはわかりません。が、小吉が「いやだ」と言っていて、大勢が参加したので、丁半博奕のたぐいと推測できます。
深川へいって見たら、蔵宿の亭主だの大商人が、日本橋近辺より集って、五、六十人斗り(ばかり)して、場を始めたが、おれにはいろいろの馳走をしてくれた故、ときわ町の女郎屋へいって、女郎を呼んで遊んでいたが、夜の七ツ時分に迎をよこしたから、茶屋へ行って見たら、諏訪部が六百両ほど勝った故、おれが見切りて連て帰った。
※原作より現代仮名遣いで引用
小吉が女郎屋で遊んでいるうちに、諏訪部さんが600両ほど勝ちます。円に換算すると約5760万円。
…勝ち過ぎじゃね?そりゃ帰り道も心配になるわ。
1両約96000円です。はやおきの一ヶ月分の生活費(←とってもどうでもいい情報)に相当します。百三話でお兄ちゃんにイラっとした小吉が判を偽造して175両ほどだまし取ったりと、この時代の金銭感覚はよくわかりません。
それはともかく、息子・麟太郎を預けた島田虎之助の噂が、小吉の耳に入ります。
百五話「金をくれと言うための手紙だぜ」に続きます。かつて小吉を地面から追い出した地主さんが困っていると知り、小吉が出動します。