マンガで読める『夢酔独言』

マンガで読める『夢酔独言』

勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』がマンガで読めるブログです。

勝小吉自伝『夢酔独言』とは

    『夢酔独言』は、冒険小説である。

 

 『夢酔独言』とは、幕末・明治維新に活躍した偉人、勝海舟の父親が書いた自伝です。この記事では、作者兼主人公の勝小吉と、『夢酔独言』のストーリー、独特の文体について解説します。

 

 

 おれほどの馬鹿な者は世の中にもあんまり有るまいとおもふ。ゆえに孫やひこのために、はなしてきかせるが、能々不法もの、馬鹿者のいましめにするがいいぜ。

 

1 概要(成り立ち)

 

 勝小吉(1802~1823)は、江戸時代後期の旗本(武士)です。江戸深川の男谷家に生まれ、7歳の時、勝の家に養子に入ります。9歳の時本所に移り住み、晩年虎ノ門に移るまで、そこで暮らしました。

 小吉は幼い頃から乱暴者でケンカが大好き、逆に学問は「気分に障るから」と言ってしませんでした。24歳で手習いをやり始めるまで読み書きもろくにできず、16歳の時点で、自分の名前も書けなかったほど。腕っぷしは強く、剣術ではかなり強かったようですが、ついに武士としては無職のまま、37歳で隠居します。そして「男たるものは決しておれが真似をばしないがいい」と、『夢酔独言』を書きました(「夢酔」は小吉の隠居後の名前です)。

 この頃、息子の麟太郎(後の海舟)はまだ21歳、歴史上では、黒船が浦賀に来る10年前でした。

 

2 ストーリー

 子孫へのいましめがコンセプトの『夢酔独言』ですが、肝心の「いましめ」部分は冒頭と結びにあるだけで、あとの内容は、幼少期から42歳現在に至るまでの、小吉自身が体験した出来事になっています。

 例えば最初のエピソードは、5歳の時の近所の子供(長吉)との凧ゲンカのこと。

 

向ふは年もおれより三つばかりおふきいゆへ、おれが凧をとって破り、糸も取りおった故、むなぐらをとつて、切り石で長吉のつらをぶつた故、くちべろをぶちこはして、血が大そう流れてなきおつた。そのときおれの親父が、庭の垣ねから見ておって、侍を迎によこしたから、内へかへつたら、親父がおこつて、「人の子に疵をつけてすむか、すまぬか。おのれのよふなやつはすておかれず」とて、縁のはしらにおれをくゝして、庭下駄であたまをぶちやぶられた。

  このくだりは以上で、この時父親に殴られて小吉は物理的にへこむのですが、「暴力はダメ」とかいった説教も解説も特になく、次のエピソードへ続きます。しかも、ひとつひとつの描写が細やか。作者である小吉を主人公とした、一人称視点の小説として読むことができるのです。

 息子・麟太郎のエピソードも、少しですがあります。

 

3主人公・小吉のキャラクター

 

 『夢酔独言』を「冒険」小説たらしめているのは、何といっても作者兼主人公の小吉のキャラクターです。

 お姑さんとうまくいかなければ家出。

 年貢を盗んで吉原デビュー。

 居候の世話をし過ぎて借金が出来る。

 バリバリの江戸っ子で負けん気が強く、自分のやりたいことに忠実で、人の世話と女遊びには金を惜しまない。そんな小吉が取る行動は、平凡から逸脱して、いつもドタバタしています。

 自分目線で書いているので「これって自慢じゃないのか?」というくだりも多いんですが、どのエピソードの小吉も、立派というより、どこかダメ人間っぽくて、微笑ましいんですよね。

 

4文体

 ここで引用している『夢酔独言』は、平凡社東洋文庫138勝部真長編のものです。仮名遣いや句読点を読みやすく調整してはいますが、現代語訳ではありません。

 それでもそれなりに読めるのは、『夢酔独言』の最大の特徴でもあるのですが、全編が喋り言葉で構成されているからです。

 同じく勝小吉著とされている(小吉の女房・お信が書いた説もあります)『平子龍先生遺事』に、『夢酔独言』と同じくだりがあるので、比べてみましょう。

 

『平子龍先生遺事』

 翌朝眼を覚し見候ところに一物もなし。それより大いに驚き、先ず亭主を呼び、あらまし申聞け候ところ、亭主申すは、其人は先刻早立に致され、御自分様にも御目の覚め次第、跡より参れとの事なり。我等は尾張津島の祭に間に合ひ候様急ぐなりとて出られけりと申聞きける故に、致方なく途方に暮れ候ところ、亭主が申すは、全くそれがごまのはいと申す者なり。 

 

 『夢酔独言』

 朝、目がさめた故、枕元を見たらなんにもなゐから、きもがつぶれた。宿やの亭主に聞いたら、二人は、「尾張の津島祭りにはまに合はないから、先へゆくから、跡よりこひ」といつて立おつたといふから、おれも途方にくれて、なゐていたよ。

 亭主 がいふには、「夫は道中のごまのはゐといふ物だ。…

 

 当時は、『平子龍先生遺事』の文体が、一般的でした。普段喋っている言葉と、文章の言葉遣いはかけ離れていたんです。

 ところが、小吉はセリフだろうが地の文章だろうが、全て自分の喋る言葉で『夢酔独言』を書きました。そのお陰で、私達は江戸時代に生きた小吉の見聞きしたことや話したこと、思ったことを彼自身の言葉で知ることができるのです。

 

5 『夢酔独言』を読む

 八方破れの人生の反省文として書かれた『夢酔独言』も、今では多数の出版社から刊行されています。文庫本にして130ページ足らずなので、ぜひ読んでみてください。

 「おれの真似はするな」と言いながら、小吉の人生は楽しそうです。

 現代語訳版もありますが、原文の、威勢がよくて流れるような語り口は、独特の魅力があるので、原文版をおすすめします。

 

 

 

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