『夢酔独言』 二十六話 自分の名前が書けない
お姑さんとの不仲が原因で、14歳の時、上方を目指して四か月間の家出をした小吉。無一文になったり物乞いをしたり、病気にかかったり崖から落ちたりしましたが、自力で江戸の家まで帰ってきました。その無理がたたって、2年ほど家にひきこもっていましたが、就職活動をする年頃になります。
上司へ希望の役職を訴える面接「逢対(あいたい)」に出向く小吉ですが、初歩の初歩、自分の名前すら書けずに、他の人に書いてもらいます。そんな調子で就活がうまくいくはずもなく、ますます姑にがみがみ言われ、家に居つかなくなる小吉。
そんな折、兄の同僚に誘われて行った先は…あの有名スポット・吉原!
十六の年には漸々しつも能(よく)なつたから、出勤するがいゝといふから、逢対(あいたい)とつとめたが、頭の宅で張面が出ているに銘々名を書くのだが、おれは手前の名がかけなくてこまつた。人に頼んで書いて貰た(もらった)。
このあたりでは、現代劇の影響でけっこう皆さん立って喋ったりもしていますが、この時代は、皆さん基本座って何かします。
また、男性の着物の襟が前けっこう開いていますが、実際はもっときちんとしていたと後で思い直しています。逆に、女性の着物の襟は今よりずっと開いていて、帯の位置も下気味です。
また内ではばゝあどのが、猶々やかましくつて、「おのれは勝の家をつぶそうとしたな」とていろゝゝいゝおつてこまつたが、毎日々々内にはいなんだ。
二十七話に続きます。