マンガで読める『夢酔独言』

マンガで読める『夢酔独言』

勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』がマンガで読めるブログです。

マンガ『夢酔独言』 番外編「麟太郎と借金取り」

    はやおきはただ今子供編(二~十話)を本にまとめるための作業をしている最中ですが、そのため新しいお話のペン入れがお留守になっております。

    その代わりとしまして、家督を継いだばかりの麟太郎を主人公とした番外編をお送り致します。

    後から思いついただけで、順番的には、百二十二話と百二十三話の間になります。

 

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 今回のお話は、明治三十二年に刊行された勝海舟と、三十三年の『人情世界』臨時増刊号より講談「日本豪傑百家選 勝安房の内容を元に構成しました。

 家督を継いだ麟太郎の元に借金取りが押しかけるというエピソードなのですが、勝海舟の資料では見たことがない話なのですが、2冊の本で語られているし、小吉が生きている時の出来事なのでこの度漫画にしました。四日で書いたよ。

 

 

 

 まずは『勝海舟』から、該当箇所を抜粋します。

勝家は極めて小禄なりき。海舟翁の父の実家、男谷平蔵は有数の資産家なりしも、勝家を継ぎたり左衛門太郎は小禄なるがうえに、粗豪産をおさめず、死後多くの負債(小身にしては)を遺したりき。海舟翁の語れるところによれば、彼が十七にして家督を相続したる時は、債主門に集まりて督促するとはなはだ急なり、彼は百方哀願して少しくくつろごうせしめ、かつ蔵前の商人より二両三分を借り受け、これによりて一時の急を救い、武士の面目にかけても父の負債を弁償すべきことを誓いたりと。されば後年人にかたりて曰く、余の知己三人あり、すなわち債主、蔵前の商人および兵学の先生なりと。

※はやおきによる現代仮名遣いで引用

 

  

 

 続きまして、『人情世界』臨時増刊号。

 講談を字にしたものなのでか、「。」がありません。

…しかるにその年の夏の初めに至りまして父の左衛門太郎殿は、ふと病気のために床に伏しましたが、げに木の葉よりもろきは人の命でございまして、さなきだに降りみ降らずみ五月雨の、湿り勝なる袖袂に、涙の露のかかるべき勝の一家は、悲しや五月半ばに床柱の左衛門太郎殿は、あえなく最期をとげました、麟太郎殿は年心深き人なれば、その嘆きひとかたならずといえども、嘆いたからというて死したる人の甦るべくもあらねば、ねんごろに葬り後の弔いをいたし、麟太郎殿が十七歳の少年ながらここに家督を継ぐことになりましたサア代が替わるとただ今まで催促をしなかったところの人々が、一様に申し合わせたるごとくやって来て、貸金の催促をいたします、どうにも麟太郎殿も初めて家督を継いだばかりで、潮の寄せるがごとき借金取りの連中に取り巻かれ、こんな困ることはありません、後には維新の大難時を容易に処理した腕前の勝さんも、初めて世間の上へ頭を出したばかりで、浮世の辛い目にあったのでありますから、少しは驚きました、ただ今まで家の暮らしのことなどは知りませんから、こんな、たくさんの借金があろうとは夢にも知らない寝耳に水とはこのことだ、しかし親の借りた金だによって、拙者は知らん父は冥土においでなさるから、ご苦労ながら冥土に取りにいってくれとも言われまい、何も孝道の一端である、どうにかしてこの借金を払ってやることにしようと、少年ながら誓ったところがございます

「アアこれこれ大勢の者、拙者は当家の主麟太郎じゃ、お前達は何か亡父に貸金があると言うたそれを催促に参ったことであるか」

と言いましたから一人進み出でまして

「ヘエこれは若様でございますか、私は金貸し利兵衛と申しまして、ちょうど五年前に少々ばかりのお金をご用立て申しましたが、ただ今に至りますまでただの一度も利を入れてくださりませんから、その利息とも積もって十五両にあいなりました、どうぞ今日お払いを願いとうございまする」

と言うとそばにおりました薪屋の杢兵衛

「私は三年分の薪代をちょうだいにあがりました、どうぞ利兵衛さんの方を後にして私の方をお払いくだされ」

と言うと酒屋の清兵衛が出まして

「エエ私は八年分のお酒代を…」

と言うから、麟太郎殿いちいちその言葉を聞いて

「アア左様かよくお前達の言うことは分かった、その書付を見せてくれ」

と言って一同の書付を見ますると二両三両五両八両十両とありまして総計で五十何両という大金でございますから、今の場合でどうしてこの大金が払えましょうか、父は死去いたして間のないことだに、弔いの金子もたくさんにかかっているに、この借金はとても払えません、しかし払わなければ彼らもなかなか承知はいたすまい、武士たるもの町人風情の金を借りて返さんとあっては武士たるものの名折れであると思いましたから一同に向かいまして

「ヤア一同の者ことごあい分かった、拙者は先達て家督を継いだばかりで家にもかようの借金のあることを知らなかったが、ただ今かように知ってみれば父の借財ゆえ決して踏み倒しはしまい、がしかし今すぐに払うということはできんがきっと払う、武士の面目にかけて払うから、どうせ今まで待っていたのだから今少し待ってくれ」

と歳に似合わぬ挨拶ぶりに、一同の者も無理に今日もらわなければならんというのでありませんから、その日はそれで帰りました、さて麟太郎殿はどうかしてこの借金を払わんと翌日浅草蔵前のある家へ参って、百両の金子を借用してひとまず父の借財を払いましたるは、なかなか感心なものでございます、ようやくにいたしまして父の借金を返してしまい、…

 

 

 

 共通するくだりは、

・麟太郎が17歳で家督を継いだ時点で、小吉は死んでる

・新当主となった麟太郎の元に借金取りが押しかける

・麟太郎は浅草蔵前で金を借り、借金取りに金を返した

です。

 

 実際は麟太郎が家督を継いだのは16歳の年で、小吉は健在でした。また、同じ年、剣術修行のため勝家を出てしまったので、お話を成立させるべく、漫画では夢酔(小吉)が摂州へ旅立った時のエピソードとしました。麟太郎が道場を抜け出したりと、けっこう無茶な仕立てとなっています。

 

 番外編は、他に男谷精一郎さんと平山行蔵先生絡みで1話書きたいと思っています。いつ書くかは未定。まだ全然考えてません。

 

 

 

boothでグッズを売ってるよ

 マンガ『夢酔独言』序編を4冊売ってから開店休業状態のboothの「マンガで読める『夢酔独言』(店の名前)」に、ひっそりと商品が追加されました。

 

↓こちらから店へ行けます。見るだけならタダ

マンガで読める『夢酔独言』 - BOOTH

 

 

 

・2021年11月現在のラインナップ

 

江戸時代の小さい人マスキングテープ - マンガで読める『夢酔独言』 - BOOTH

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江戸時代の小さい人マスキングテープ

 

  江戸時代の絵の引いた図とかに描かれている小さい人のテイストが好きなので、マスキングテープにしたものです。

 一回作った後で、絵が切れちゃってたので(画像見たまんまだったんですが、それっぽい演出かと思ってました。巻いてる部分も合成できるんですね。現代の技術スゲー!)直したから、画像の絵柄とはちょっと違ってるんですが…。

 

 

 

『夢酔独言』アルファベットTシャツ - マンガで読める『夢酔独言』 - BOOTH

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『夢酔独言』アルファベットTシャツ

 

 『夢酔独言』冒頭部分をホオズキアルファベットのハンコで一文字一文字計5時間かけてスタンプしたやつを、一瞬で合成してTシャツにしたやつです。

「おれほどの馬鹿な者は世の中にもあんまりあるまいと思う。故に子や曾孫(ひこ)のために話して聞かせるが、よくよく不法者、馬鹿者のいましめにするがいいぜ。」と書いてあります。

 サイズの選択肢があります。

 

 

 

獅子の羽織の小吉Tシャツ - マンガで読める『夢酔独言』 - BOOTH

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獅子の羽織の小吉Tシャツ

 

 これも何時間かかけて描いたのを、一瞬で合成してTシャツにしました。

 小吉の背後の黒いのは、角字で「夢酔独言」と書いています。

 こちらも、サイズ選択肢があります。

 

 

 

 今のところは、以上です。

 ブログに載せた画像で、何かグッズにしてほしいのがあったらお申し出ください。合成するだけで作成できて、合成するだけならタダです。

 

 

 

マンガ『夢酔独言』 十五話「御師龍太夫」

     勝小吉自伝『夢酔独言』より、小吉14歳、一度目の家出エピソードその4です。

 前回、炊いた飯を求めて伊勢をさまよった小吉ですが、今回は、御師(おんし)の家でタダ飯を食らいます。

 

 

 

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2021年11月に描いた絵

 2021年11月に描いた絵です。

 新しいのが、上に来ます。

 

 

 

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    タイトル字の上に、小吉。

    ちゃんとした一枚絵を真面目に描いたのは久し振りです。

    小吉が20代くらいの話の扉絵にしたいな。

 

 


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    「SOUR」

    酸っぱい。あるいは、腐った。

 

 


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    Inktoberの絵を、性懲りも無く描いておる…。

    「PICK」。選ぶとか、摘むとかいった意味です。

 

 

 

2021年10月に描いた絵

 2021年10月に描いた絵です。

 10月はinktoberという、一日ひとつ、お題に沿った絵をインクで描くというイベントがあるのですが、はやおきは例年毎日真面目に絵を描いていたのですが、今年は月前半まで気分の落ち込みがあったので、跡から思い立って書き始めたものの、中途になっています。

 新しい絵が、上に来ます。

 

 

 

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 ハロウィンの絵です。スケルトン。


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「PURESSURE」

    猫をいっぱい描きたかった絵です。

    はやおきは猫信者ですが、猫は本物が至高なので、意外と、猫を描いたのは2年ぶりぐらいだったりします。

 

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WATCH

    鳥の虫ウォッチング。


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「FAN」

   団扇娘。

 

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「SPIRIT」

    精神とか、魂という意味ですが…難しい。

 

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RAVEN

    むさぼる。

    何かよく分からんムニョムニョをむさぼっています。


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「KNOT」

    結び目。

    今年は『夢酔独言』以外のモチーフにしようと努めたのですが、早速小吉を描いてしまいます。しかもあんまり結び目中心の絵でない。


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「VESSEL」

    容れ物とかそーゆう意味らしいです。

    こちらは茶道具の棗(なつめ)…ですが、実物を見たことがないので、ちょっと茶筒っぽくなってしまいました。


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「SUIT」

    スーツ。時代考証なし。


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「CRYSTAL」

    結晶。

    はやおきは、所有はしてないですが鉱物も好きです。

    絵は、蛍石と水晶。

 

 

 

好きな『夢酔独言』エピソード10選

はてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選

 

    はてなブログのお題を拝借しまして、勝小吉自伝『夢酔独言』より、はやおきが個人的に好きな勝小吉エピソードを、時系列順に、原作箇所の引用(はやおきによる現代仮名使いでお送りします)とともにご紹介します。

※エピソードが含まれる記事のリンクを貼ると便利なんですけども、こちらを読めば事足りるので今回は割愛します。

 

 

 

1.飯はもらうけど仲間にはならず逃亡(二十四話より)

 回向院の墓場に乞食の頭(かしら)があるが、おれに、

「仲間へ入れ」

と抜かしおったから、そやつの所へ行って、したたか飯を食いたおして、それから亀沢町へ来てみたが、…

 小吉14歳、家出から帰る直前のエピソードです。

 文を区切らず、流れるようにつぎのくだりに行ってるのが、罪悪感がみじんもなさそうで最高です。

 小吉、半生を通じて、こんな感じで美味いところだけ味わってから約束は守らず逃げ出すという手法をよく使います。

 

 

 

2.吉原通いにハマって年貢の金を盗む(二十七話より)

 兄貴の役所詰めの男に久保島可六という男があったが、そいつがおれをだまかして吉原へ連れて行きおったが、面白かったから、毎晩毎晩行ったが、金がなくって困っていると、信州の御料所からご年貢の金が七千両来た。役所へ預かりて改めてご金蔵へ納めるのだ。

 小吉16歳のエピソードです。

 吉原通いにハマって年貢の金に手を出すという、ベタ過ぎてフィクションではもはややらない展開です。

 引用箇所の、いやな予感しかしない流れが好きです。

 「100両ばかり盗め」と言われて、多めに200両盗むところも好き。

 

 

 

3.小林隼太さんはヤバいやつ(四十一、四十二話より)

 それから、おれを闇討ちにするとてつけおったが、ときどき油断を見ては夜道にてすっぱ抜きをして切りおったが、ときどき羽織なぞ少しずつ切ったが、傷は付けられたことはなかった。それからいろいろしおったが、おれも気をつけていた故に、ある時、暮に親類へ金を借りに行ったときに、道の横丁より小林が酒を食らった勢いで、おれが通るといきなり鼻の先へ刀を抜いて突き出した。

 小吉が18歳頃のエピソードです。男谷道場に新しく弟子入りした小林隼太という人と剣術の試合をして勝つ小吉ですが、小林さんに命を狙われるようになります。

 小林さんは、『夢酔独言』で小吉と一位二位を争うヤバい人です。ルールはだいたい守らない。

 この時期の剣術の試合や捕り物の描写がいくつかあるのですが、体当たりしたり真剣を持ち出したり、目つぶししたりと、けっこう荒っぽいです。

 

 

 

4.反省のために入った檻からの脱走を試みる(五十三話より)

…家へ帰ったら、座敷へ三畳の檻をこしらえておいて、おれをぶち込んだ。

 それからいろいろ工夫をしてひと月も経たぬうち檻の柱を二本抜けるようにしておいたが、みんなおれが悪いから起きたことだ、と気が付いたから、檻の中で手習を始めた。

 21歳、二度目の家出から帰宅後、反省のため檻に入れられた小吉ですが、全然反省していないことがわかるくだりです。

 

 

 

5.独特過ぎる小吉流看病(七十二~七十五話)

 息子は布団を積んでそれに寄りかかっていたから、前をまくって見たら玉が下りていた故、外科の成田というが来ているから、

「命は助かるか」

と尋ねたら、難しく言うから、まず息子をひどく叱ってやったら、それで気がしっかりとしたようす故に、駕籠で家へ連れてきて、…

 小吉が30歳の頃の、数少ない、小吉の好感度が上がるエピソードです。他にもあるかと聞かれると、思い当たりませんが…。

 犬に噛まれた9歳の息子・麟太郎を看病するくだりですが、小吉のすることなので、普通とは三味くらい違っています。

 ここのくだりで小吉はいつも以上に強い態度をとっていて、それだけ麟太郎が心配で不安だったんだろうということが窺えて、好きなエピソードです。

 

 

 

6.小吉の浮気(七十六話より)

 「女の家へ私が参って、ぜひとももらいますが、先も武士だから、挨拶が悪いと私が死んで、もらいますから」

と言った。

 その時に短刀を女房へ渡したが、

「今晩参りてきっと連れてくる」

と言うから、おれは外へ遊びに行ったらば、…

 小吉29歳頃のエピソードです。浮気が妻にバレて、妻が「女をもらってやる」「うまくいかなかったら死ぬ」とか言い出して、「じゃあこれ使って!(とは言ってないですが)」と短刀を渡して小吉は遊びに行くという意味不明なくだりです。

 半分本気で、妻が女をもらってくれると思ってたっぽくて怖い。

 

 

 

7.手紙を書いた書かないで揉める兄弟(八十六~九十話)

「兄が兄弟の手跡の真偽を見分けざることが出来ぬ故は、なかなか懸け合いは大役故に勤められぬ」

と言ってやったら、兄が怒って、御用箱よりおれの手紙を出して、おれに、

「貴様が書いた手跡だ。よく見ろ」

と言って、投げ出した故、おれが取って燭台を出させて、三度くり返して、大声で読んで兄へ返して、

「よく似せました」

と言ったら、兄が言うには、

「何とこれでもかれこれ言うか」

 小吉が35歳頃、ケンカ別れして10年間絶交していた(この時点で雲行きが怪しい)二番目のお兄ちゃん・三郎右衛門さんと復縁します。

 ところが甥っ子(三郎右衛門さんの三男)の正之助に手紙を書いた書かないで、長兄・彦四郎さんを巻き込んだ揉め事に発展します。

 このくだりで、小吉は彦四郎さんに「吉原行き過ぎ、いい加減卒業しろ」と説教されたり、兄弟の情に訴えるも懐柔できなさそうと悟ると「仕事でミスばっかりするんだから引退しろ」と三郎右衛門さんを陥れにかかったり、自分の書いた手紙を偽筆と言い張ったり、三郎右衛門さんの指示で甥っ子達に殺されそうになっ(てそれについて三郎右衛門さんに皮肉を言っ)たりと、小吉と三郎右衛門さんの相性の悪さを存分に堪能できます。

 三郎右衛門さんは、このあともう一回、百三話で小吉にひどい目にあわされます。

 

 

 

8.檻に入る代わりに吉原へ行く(九十八~百話)

「それには及ばず。先に言う通り、何も家のことは気にかかることはない。息子が十六だからおれは隠居をして早く死んだがましだ。長生きをすると息子が困るから。息子のことはなにぶん頼む」

と言ったら、そのうちに姉が来て、

「ひとまず家へ帰れ」

と言うから、それから家へ戻ったら、夜五つ自分まで呼びに来るかと待っていたが、一向沙汰がないから、その晩は吉原へ行って翌日帰った。

 小吉36歳、己の素行の悪さから、檻に入れられそうになる小吉(二回目)。

 兄嫁のお遊さん&甥の男谷精一郎さんに説得され、何やかんやでいったん帰宅し、そのまま吉原へ行って翌日帰る(※武士の無断外泊はご法度)という、檻に入れられて当然の不良ぶりです。

 「(おれが)長生きすると息子が困る」というセリフも、全然行動が伴ってないのでシリアスな場面なのにギャグっぽくなってていいです。

 

 

 

9.剣術使い・島田虎之助を吉原遊びに誘う(百六、百七話より)

…断るを無理に引き出して、浅草で先奥山の女どもをなぶって歩いたら、肝をつぶした顔をして後から来るから、

「寿司飯を食うか」

と聞いたら、

「好きだ」

と言う故に、

「そんなら面白い所で寿司をあげる」

 小吉37歳、隠居した直後の、九州から江戸へやって来た剣術使い・島田虎之助さんと初対面時のエピソードです。島田さんは、小吉の息子・麟太郎の剣術の師匠です。

 この島田さん、とても真面目で堅物なのですが、見るからにチャラい小吉を初めは不審がるも、どんどん小吉のペースに巻き込まれていきます。小吉は小吉で、乗り気でない島田さんにムリヤリ酒やタバコを呑ませたり、遊郭の部屋を自分の顔で空けさせたりと、やりたい放題です。

 その後、島田さんは小吉と仲良しになります。

 

 

 

10.「人は何でも勢いが肝心だと思った」(百二十一話より)

「おれがしたがかれこれ言うはいかがの心得だ。其の方両人は別ておれにこれまで刃向うたが、格別の勘弁をしておくに不届きのやつだ」

とおどかしてやったらば大きに怖がった故、

「この証文は夢酔がもらいおく」

とて立って座敷へ入ったら、両人は

「恐れ入りました」

とて早々帰った故、百五十両は一言にて踏んでしまった。人は何でも勢いが肝心だと思った。

 夢酔(小吉)38歳、摂州御願塚村でのエピソードです。ほぼハッタリと口から出まかせだけで村に550両出させた末に、要求されたことには一切取り合わず、証文は見るふりをして焼却処分という極悪非道ぶりです。

 38歳にもなって得た教訓が「人は何でも勢いが肝心」というのが、全然感慨深くなくて最高です。

 

 

 

 以上、はやおきが個人的に好きな『夢酔独言』エピソード10でした。

 他にもたくさん面白エピソードが収録されているので、気になった方は、ぜひ『夢酔独言』を購入して読んでくださいませ。amazonとかで売ってると思うんで…。

 

 

 

マンガ『夢酔独言』 十四話「生米は焚かなきゃ食えない」

 勝小吉自伝『夢酔独言』より、小吉14歳、一度目の家出エピソードその3です。

  浜松から物乞い&野宿で伊勢路まで来た小吉ですが、伊勢路では炊いた飯はくれず、生米ばかりが溜まります。生米をかじって飢えをしのぐものの、体調を崩す小吉。河原の横穴で休んでいると、そこをねぐらにしていた二人組が帰ってきます。二人から「炊いた飯をくれる」と聞き、伊勢郊外の村へ行く小吉ですが…。

 

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【前回までのあらすじ】

 江戸の家から上方(かみがた)を目指して、東海道を旅していた小吉。浜松で持ち物をすべて盗まれるが、宿屋の亭主に柄杓をもらい、物乞い&野宿で伊勢神宮へ参詣するが…。

 

 

 

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    今回小吉が滞在するのは、手元の地図でこの辺りです。

 

 

 

伊勢路では火で炊いた物は一向くれぬ故、生米をかじりて歩いたから、病後故に腹が治らぬから、またまた気分が悪くって、所は忘れたがある川原の土橋の下に大きな穴が横に空いているから、そこへ入って五、六日寝ていた。

※はやおきによる現代仮名遣いで引用

 

 冒頭からいつの間にか病気になっている小吉ですが、実は『夢酔独言』では、このエピソードは後半にあるのです。

 一度目の家出エピソードは、小吉のもう一つの著作『平子龍先生遺事』でも語られるのですが、マンガ『夢酔独言』では、この『平子龍先生遺事』での順番を採用しています。その理由は後ほど。

 

 『夢酔独言』と『平子龍先生遺事』の家出エピソードの違いは、こちらの記事にまとめています。

musuidokugen.hatenablog.com

 

 

 

 ある晩、若い乞食が二人来て、おれに言うには、

「その穴は先月まで神田の者が寝床にしたところだが、どこかへ行きおった故に、おらが毎晩寝る所だ。三、四日稼ぎに出た故、手前に取られて困る」

と言う故、病気の由を言ったら、

「そんなら三人にて寝よう」

と抜かして、六、七日一緒に居たが、食い物に困り、

「どうしよう」

と二人へ言ったら、

「伊勢にては火の物は太神宮様が外へ出すを嫌いだから、くれぬ故、在所へ行ってみやれ」

と言うから、杖にすがってそこより十七、八町(約1.9㎞)の脇の村方へ入ったら、

 

 

 

 「伊勢にては火の物は太神宮様が外へ出すを嫌い」というのは謎の設定ですが、伊勢神宮の中では「忌火」という清浄な火で神饌(神様へお供えする食事)をこしらえるそうで、それが施しにも影響していたのかもしれません。

 

 そういうわけで、炊いた飯を求めて、村の方まで行った小吉ですが…。

 

 

 

…番太郎(番人)が六尺棒を持って出て、

「なぜ村方へ来た。そのために入口に不だが立ててある。このべらぼうめが」

と抜かして、棒でぶちおったが、病気故に気が遠くなって倒れた。

 そうすると足にて村の外へ蹴出しおった故、ほうほう這うようにしてようよう橋の下へ帰って来たら、二人が、

「どうしてた」

と言うから、その次第(一部始終)を言ったら、

「手前は米はあるか」

と言うから、麦と米と三、四合もらい溜めたを出して見せたら、

「そんならおれが粥を煮てやろう」

と言って、徳利の欠けを出して、土手の脇へ穴を掘って、徳利へ麦と米を入れて見ずをも入れ、木の枝をもして、粥を拵いてくれたから、少し食った。あとは礼に二人へふるまった。

 それよりおれも古徳利を見つけて、毎日毎日もらった米、麦、ひきわりをその徳利にて煮て食ったから、困らないようになったが、それまでは誠に食物には困った。

 

 

 

 立ち入り禁止の立て札が読めず(…とは原作には書いていませんが、小吉は学問が大嫌いで、二度目の家出の後まで、ほとんど読み書きができませんでした)、番人に追い返された小吉。

 橋の下へ帰って、横穴仲間に徳利で粥を炊く方法を教えてもらいます。

 

 漫画でこのエピソードをこの位置(『平子龍先生遺事』では順番通り)に持ってきたのは、小吉に自炊手段を早めに獲得してもらうためです。一度伊勢に来ていながら、後半になるまで自炊の手段がないと、とても大変そうなので…。

 

 

 

 そんなこんなで、自炊の手段を手に入れた小吉。

 次回も、別方面で伊勢を堪能します。

 

 

 

 十五話「御師の家へ行く(仮)」に続きます。

 同じ物乞いの男から、伊勢の御師(おんし)について教わる小吉。御師の家に言って口上を述べると、もてなしてくれると聞きますが…。

    お楽しみに!