マンガで読める『夢酔独言』

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勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』がマンガで読めるブログです。

好きな『夢酔独言』エピソード10選

はてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選

 

    はてなブログのお題を拝借しまして、勝小吉自伝『夢酔独言』より、はやおきが個人的に好きな勝小吉エピソードを、時系列順に、原作箇所の引用(はやおきによる現代仮名使いでお送りします)とともにご紹介します。

※エピソードが含まれる記事のリンクを貼ると便利なんですけども、こちらを読めば事足りるので今回は割愛します。

 

 

 

1.飯はもらうけど仲間にはならず逃亡(二十四話より)

 回向院の墓場に乞食の頭(かしら)があるが、おれに、

「仲間へ入れ」

と抜かしおったから、そやつの所へ行って、したたか飯を食いたおして、それから亀沢町へ来てみたが、…

 小吉14歳、家出から帰る直前のエピソードです。

 文を区切らず、流れるようにつぎのくだりに行ってるのが、罪悪感がみじんもなさそうで最高です。

 小吉、半生を通じて、こんな感じで美味いところだけ味わってから約束は守らず逃げ出すという手法をよく使います。

 

 

 

2.吉原通いにハマって年貢の金を盗む(二十七話より)

 兄貴の役所詰めの男に久保島可六という男があったが、そいつがおれをだまかして吉原へ連れて行きおったが、面白かったから、毎晩毎晩行ったが、金がなくって困っていると、信州の御料所からご年貢の金が七千両来た。役所へ預かりて改めてご金蔵へ納めるのだ。

 小吉16歳のエピソードです。

 吉原通いにハマって年貢の金に手を出すという、ベタ過ぎてフィクションではもはややらない展開です。

 引用箇所の、いやな予感しかしない流れが好きです。

 「100両ばかり盗め」と言われて、多めに200両盗むところも好き。

 

 

 

3.小林隼太さんはヤバいやつ(四十一、四十二話より)

 それから、おれを闇討ちにするとてつけおったが、ときどき油断を見ては夜道にてすっぱ抜きをして切りおったが、ときどき羽織なぞ少しずつ切ったが、傷は付けられたことはなかった。それからいろいろしおったが、おれも気をつけていた故に、ある時、暮に親類へ金を借りに行ったときに、道の横丁より小林が酒を食らった勢いで、おれが通るといきなり鼻の先へ刀を抜いて突き出した。

 小吉が18歳頃のエピソードです。男谷道場に新しく弟子入りした小林隼太という人と剣術の試合をして勝つ小吉ですが、小林さんに命を狙われるようになります。

 小林さんは、『夢酔独言』で小吉と一位二位を争うヤバい人です。ルールはだいたい守らない。

 この時期の剣術の試合や捕り物の描写がいくつかあるのですが、体当たりしたり真剣を持ち出したり、目つぶししたりと、けっこう荒っぽいです。

 

 

 

4.反省のために入った檻からの脱走を試みる(五十三話より)

…家へ帰ったら、座敷へ三畳の檻をこしらえておいて、おれをぶち込んだ。

 それからいろいろ工夫をしてひと月も経たぬうち檻の柱を二本抜けるようにしておいたが、みんなおれが悪いから起きたことだ、と気が付いたから、檻の中で手習を始めた。

 21歳、二度目の家出から帰宅後、反省のため檻に入れられた小吉ですが、全然反省していないことがわかるくだりです。

 

 

 

5.独特過ぎる小吉流看病(七十二~七十五話)

 息子は布団を積んでそれに寄りかかっていたから、前をまくって見たら玉が下りていた故、外科の成田というが来ているから、

「命は助かるか」

と尋ねたら、難しく言うから、まず息子をひどく叱ってやったら、それで気がしっかりとしたようす故に、駕籠で家へ連れてきて、…

 小吉が30歳の頃の、数少ない、小吉の好感度が上がるエピソードです。他にもあるかと聞かれると、思い当たりませんが…。

 犬に噛まれた9歳の息子・麟太郎を看病するくだりですが、小吉のすることなので、普通とは三味くらい違っています。

 ここのくだりで小吉はいつも以上に強い態度をとっていて、それだけ麟太郎が心配で不安だったんだろうということが窺えて、好きなエピソードです。

 

 

 

6.小吉の浮気(七十六話より)

 「女の家へ私が参って、ぜひとももらいますが、先も武士だから、挨拶が悪いと私が死んで、もらいますから」

と言った。

 その時に短刀を女房へ渡したが、

「今晩参りてきっと連れてくる」

と言うから、おれは外へ遊びに行ったらば、…

 小吉29歳頃のエピソードです。浮気が妻にバレて、妻が「女をもらってやる」「うまくいかなかったら死ぬ」とか言い出して、「じゃあこれ使って!(とは言ってないですが)」と短刀を渡して小吉は遊びに行くという意味不明なくだりです。

 半分本気で、妻が女をもらってくれると思ってたっぽくて怖い。

 

 

 

7.手紙を書いた書かないで揉める兄弟(八十六~九十話)

「兄が兄弟の手跡の真偽を見分けざることが出来ぬ故は、なかなか懸け合いは大役故に勤められぬ」

と言ってやったら、兄が怒って、御用箱よりおれの手紙を出して、おれに、

「貴様が書いた手跡だ。よく見ろ」

と言って、投げ出した故、おれが取って燭台を出させて、三度くり返して、大声で読んで兄へ返して、

「よく似せました」

と言ったら、兄が言うには、

「何とこれでもかれこれ言うか」

 小吉が35歳頃、ケンカ別れして10年間絶交していた(この時点で雲行きが怪しい)二番目のお兄ちゃん・三郎右衛門さんと復縁します。

 ところが甥っ子(三郎右衛門さんの三男)の正之助に手紙を書いた書かないで、長兄・彦四郎さんを巻き込んだ揉め事に発展します。

 このくだりで、小吉は彦四郎さんに「吉原行き過ぎ、いい加減卒業しろ」と説教されたり、兄弟の情に訴えるも懐柔できなさそうと悟ると「仕事でミスばっかりするんだから引退しろ」と三郎右衛門さんを陥れにかかったり、自分の書いた手紙を偽筆と言い張ったり、三郎右衛門さんの指示で甥っ子達に殺されそうになっ(てそれについて三郎右衛門さんに皮肉を言っ)たりと、小吉と三郎右衛門さんの相性の悪さを存分に堪能できます。

 三郎右衛門さんは、このあともう一回、百三話で小吉にひどい目にあわされます。

 

 

 

8.檻に入る代わりに吉原へ行く(九十八~百話)

「それには及ばず。先に言う通り、何も家のことは気にかかることはない。息子が十六だからおれは隠居をして早く死んだがましだ。長生きをすると息子が困るから。息子のことはなにぶん頼む」

と言ったら、そのうちに姉が来て、

「ひとまず家へ帰れ」

と言うから、それから家へ戻ったら、夜五つ自分まで呼びに来るかと待っていたが、一向沙汰がないから、その晩は吉原へ行って翌日帰った。

 小吉36歳、己の素行の悪さから、檻に入れられそうになる小吉(二回目)。

 兄嫁のお遊さん&甥の男谷精一郎さんに説得され、何やかんやでいったん帰宅し、そのまま吉原へ行って翌日帰る(※武士の無断外泊はご法度)という、檻に入れられて当然の不良ぶりです。

 「(おれが)長生きすると息子が困る」というセリフも、全然行動が伴ってないのでシリアスな場面なのにギャグっぽくなってていいです。

 

 

 

9.剣術使い・島田虎之助を吉原遊びに誘う(百六、百七話より)

…断るを無理に引き出して、浅草で先奥山の女どもをなぶって歩いたら、肝をつぶした顔をして後から来るから、

「寿司飯を食うか」

と聞いたら、

「好きだ」

と言う故に、

「そんなら面白い所で寿司をあげる」

 小吉37歳、隠居した直後の、九州から江戸へやって来た剣術使い・島田虎之助さんと初対面時のエピソードです。島田さんは、小吉の息子・麟太郎の剣術の師匠です。

 この島田さん、とても真面目で堅物なのですが、見るからにチャラい小吉を初めは不審がるも、どんどん小吉のペースに巻き込まれていきます。小吉は小吉で、乗り気でない島田さんにムリヤリ酒やタバコを呑ませたり、遊郭の部屋を自分の顔で空けさせたりと、やりたい放題です。

 その後、島田さんは小吉と仲良しになります。

 

 

 

10.「人は何でも勢いが肝心だと思った」(百二十一話より)

「おれがしたがかれこれ言うはいかがの心得だ。其の方両人は別ておれにこれまで刃向うたが、格別の勘弁をしておくに不届きのやつだ」

とおどかしてやったらば大きに怖がった故、

「この証文は夢酔がもらいおく」

とて立って座敷へ入ったら、両人は

「恐れ入りました」

とて早々帰った故、百五十両は一言にて踏んでしまった。人は何でも勢いが肝心だと思った。

 夢酔(小吉)38歳、摂州御願塚村でのエピソードです。ほぼハッタリと口から出まかせだけで村に550両出させた末に、要求されたことには一切取り合わず、証文は見るふりをして焼却処分という極悪非道ぶりです。

 38歳にもなって得た教訓が「人は何でも勢いが肝心」というのが、全然感慨深くなくて最高です。

 

 

 

 以上、はやおきが個人的に好きな『夢酔独言』エピソード10でした。

 他にもたくさん面白エピソードが収録されているので、気になった方は、ぜひ『夢酔独言』を購入して読んでくださいませ。amazonとかで売ってると思うんで…。