マンガで読める『夢酔独言』

マンガで読める『夢酔独言』

勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』がマンガで読めるブログです。

マンガ『夢酔独言』 番外編「麟太郎と借金取り」

    はやおきはただ今子供編(二~十話)を本にまとめるための作業をしている最中ですが、そのため新しいお話のペン入れがお留守になっております。

    その代わりとしまして、家督を継いだばかりの麟太郎を主人公とした番外編をお送り致します。

    後から思いついただけで、順番的には、百二十二話と百二十三話の間になります。

 

f:id:hayaoki6:20211212171829j:image
f:id:hayaoki6:20211212171822j:image
f:id:hayaoki6:20211212171831j:image
f:id:hayaoki6:20211212171815j:image
f:id:hayaoki6:20211212171838j:image
f:id:hayaoki6:20211212171820j:image
f:id:hayaoki6:20211212171818j:image
f:id:hayaoki6:20211212171826j:image
f:id:hayaoki6:20211212171836j:image
f:id:hayaoki6:20211212171833j:image

 

 今回のお話は、明治三十二年に刊行された勝海舟と、三十三年の『人情世界』臨時増刊号より講談「日本豪傑百家選 勝安房の内容を元に構成しました。

 家督を継いだ麟太郎の元に借金取りが押しかけるというエピソードなのですが、勝海舟の資料では見たことがない話なのですが、2冊の本で語られているし、小吉が生きている時の出来事なのでこの度漫画にしました。四日で書いたよ。

 

 

 

 まずは『勝海舟』から、該当箇所を抜粋します。

勝家は極めて小禄なりき。海舟翁の父の実家、男谷平蔵は有数の資産家なりしも、勝家を継ぎたり左衛門太郎は小禄なるがうえに、粗豪産をおさめず、死後多くの負債(小身にしては)を遺したりき。海舟翁の語れるところによれば、彼が十七にして家督を相続したる時は、債主門に集まりて督促するとはなはだ急なり、彼は百方哀願して少しくくつろごうせしめ、かつ蔵前の商人より二両三分を借り受け、これによりて一時の急を救い、武士の面目にかけても父の負債を弁償すべきことを誓いたりと。されば後年人にかたりて曰く、余の知己三人あり、すなわち債主、蔵前の商人および兵学の先生なりと。

※はやおきによる現代仮名遣いで引用

 

  

 

 続きまして、『人情世界』臨時増刊号。

 講談を字にしたものなのでか、「。」がありません。

…しかるにその年の夏の初めに至りまして父の左衛門太郎殿は、ふと病気のために床に伏しましたが、げに木の葉よりもろきは人の命でございまして、さなきだに降りみ降らずみ五月雨の、湿り勝なる袖袂に、涙の露のかかるべき勝の一家は、悲しや五月半ばに床柱の左衛門太郎殿は、あえなく最期をとげました、麟太郎殿は年心深き人なれば、その嘆きひとかたならずといえども、嘆いたからというて死したる人の甦るべくもあらねば、ねんごろに葬り後の弔いをいたし、麟太郎殿が十七歳の少年ながらここに家督を継ぐことになりましたサア代が替わるとただ今まで催促をしなかったところの人々が、一様に申し合わせたるごとくやって来て、貸金の催促をいたします、どうにも麟太郎殿も初めて家督を継いだばかりで、潮の寄せるがごとき借金取りの連中に取り巻かれ、こんな困ることはありません、後には維新の大難時を容易に処理した腕前の勝さんも、初めて世間の上へ頭を出したばかりで、浮世の辛い目にあったのでありますから、少しは驚きました、ただ今まで家の暮らしのことなどは知りませんから、こんな、たくさんの借金があろうとは夢にも知らない寝耳に水とはこのことだ、しかし親の借りた金だによって、拙者は知らん父は冥土においでなさるから、ご苦労ながら冥土に取りにいってくれとも言われまい、何も孝道の一端である、どうにかしてこの借金を払ってやることにしようと、少年ながら誓ったところがございます

「アアこれこれ大勢の者、拙者は当家の主麟太郎じゃ、お前達は何か亡父に貸金があると言うたそれを催促に参ったことであるか」

と言いましたから一人進み出でまして

「ヘエこれは若様でございますか、私は金貸し利兵衛と申しまして、ちょうど五年前に少々ばかりのお金をご用立て申しましたが、ただ今に至りますまでただの一度も利を入れてくださりませんから、その利息とも積もって十五両にあいなりました、どうぞ今日お払いを願いとうございまする」

と言うとそばにおりました薪屋の杢兵衛

「私は三年分の薪代をちょうだいにあがりました、どうぞ利兵衛さんの方を後にして私の方をお払いくだされ」

と言うと酒屋の清兵衛が出まして

「エエ私は八年分のお酒代を…」

と言うから、麟太郎殿いちいちその言葉を聞いて

「アア左様かよくお前達の言うことは分かった、その書付を見せてくれ」

と言って一同の書付を見ますると二両三両五両八両十両とありまして総計で五十何両という大金でございますから、今の場合でどうしてこの大金が払えましょうか、父は死去いたして間のないことだに、弔いの金子もたくさんにかかっているに、この借金はとても払えません、しかし払わなければ彼らもなかなか承知はいたすまい、武士たるもの町人風情の金を借りて返さんとあっては武士たるものの名折れであると思いましたから一同に向かいまして

「ヤア一同の者ことごあい分かった、拙者は先達て家督を継いだばかりで家にもかようの借金のあることを知らなかったが、ただ今かように知ってみれば父の借財ゆえ決して踏み倒しはしまい、がしかし今すぐに払うということはできんがきっと払う、武士の面目にかけて払うから、どうせ今まで待っていたのだから今少し待ってくれ」

と歳に似合わぬ挨拶ぶりに、一同の者も無理に今日もらわなければならんというのでありませんから、その日はそれで帰りました、さて麟太郎殿はどうかしてこの借金を払わんと翌日浅草蔵前のある家へ参って、百両の金子を借用してひとまず父の借財を払いましたるは、なかなか感心なものでございます、ようやくにいたしまして父の借金を返してしまい、…

 

 

 

 共通するくだりは、

・麟太郎が17歳で家督を継いだ時点で、小吉は死んでる

・新当主となった麟太郎の元に借金取りが押しかける

・麟太郎は浅草蔵前で金を借り、借金取りに金を返した

です。

 

 実際は麟太郎が家督を継いだのは16歳の年で、小吉は健在でした。また、同じ年、剣術修行のため勝家を出てしまったので、お話を成立させるべく、漫画では夢酔(小吉)が摂州へ旅立った時のエピソードとしました。麟太郎が道場を抜け出したりと、けっこう無茶な仕立てとなっています。

 

 番外編は、他に男谷精一郎さんと平山行蔵先生絡みで1話書きたいと思っています。いつ書くかは未定。まだ全然考えてません。