勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』の九話目、小吉が11歳の時の話です。
剣術の先生に弟子入りした小吉。そこで小普請組頭(こぶしんぐみかしら)の息子と相弟子になりますが、頭の息子は勝家の収入が低いのを、みんなの前でからかいます。
立場上、我慢していた小吉ですが、ついに堪忍袋の緒が切れて…。
十一の年、駿河台に鵜殿甚左衛門という剣術の先生がある。御簾中様のご用人を勤む、忠也流・一刀流にて銘人とて、友達が話しおった故、門弟になったが、木刀の形ばかり教えおる故、いいことに思って精を出していたが、左右とかいう伝授をくれたよ。
※原作『夢酔独言』より、はやおきによる現代仮名遣いで引用
ここのくだりで登場する鵜殿甚左衛門先生は、『江戸大古地図』(別冊宝島)の「駿河台小川町絵図に(ちょびっと字が違うけど)名前があります。
駿河台の道場には、石川右近将監(うこんのじょう)の息子もいたようですが、これが絵に描いたような意地悪な先輩(年上だったかどーかは不明ですが)。勝家の収入が低いのを、皆の前でからかってきます。
その稽古場へ、おれが頭(かしら)の石川右近将監の息子が出でしが、おれの高(たか…禄高。収入)や何かをよく知っている故、大勢の中で、
「おれが高はいくらだ、四十俵では小給者だ」
と言って笑いおるが不断のこと故、おれも頭の息子故内輪にしておいたが、いろいろ馬鹿にしおる故、あるとき木刀にて思うさま叩き散らし、悪態をついて、泣かしてやった。師匠にひどく叱られた。
からかわれた仕返しに、木刀で思いっきり殴りまくって暴言を吐いて頭の息子を泣かす小吉。リアル10倍返しです。
漫画では、お父さんを思いやる孝行息子みたいなセリフを言っていますがフィクションで、実際は単にムカつきが限界に達しただけと思われます。それにしてもやり過ぎです。木刀で殴っちゃダメだろ…。
小吉は11歳のエピソードを、頭の息子についての悪口で締めくくっています。
今は石川太郎左衛門とて御徒頭を勤めているが、古狸にて、今に何にもならぬ、女を見たような馬鹿野郎だ。
この石川太郎左衛門さん、『夢酔独言』では出番はここだけですが、ドラマ『小吉の女房』では、主要登場人物に抜擢されており、毎回しょーもない企みをしては最後には報われないという、素敵な小者キャラぶりを魅せてくれました。
『小吉の女房2』は、2021年4月2日放送スタートです(宣伝)!
十話「小吉、塾へ行く」に続きます。
12歳になった小吉。7歳の頃にちょっとだけ言されていた25歳年上のお兄ちゃんが登場し、何やかんやあって塾へ行くことになります。でも、小吉は勉強が大嫌い!当然のようにサボりますが…。
お楽しみに!