勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』の六話目、小吉が9歳の時の話です。
新しい家が完成して、小吉一家は駿河台から本所へ引っ越します。
ある時、飼い犬同士のケンカから発展して、8人(小吉ほか武家の子供)対4,50人(町人の子供)の大ゲンカに。
小吉の弟・鉄朔(てつさく)が登場します。
7歳まで深川油堀の男谷家に住んでいた小吉ですが、本所に新しい家を建てて引っ越しました。小吉が婿養子に入った勝家は、お姑さんと孫で許嫁のお信(5歳)しかいないので、男谷家でいっしょに暮らします。
原作該当箇所です(はやおきによる現代仮名遣いで引用)。
翌年、ようよう本所の普請が出来て、引っ越したが、おれが居る所は表の方だが、初めて婆あ殿と一緒になった。そうすると毎日やかましいことばかり言いおったが、おれも困ったよ。不断の食い物も、おれには不味い物ばかり食わして、憎い婆あだと思っていた。
すでにお姑さんとうまくいっていません。というか、「婆あ殿」今回に限らず、たいていお姑さんが登場する際は、だいたい小吉主観の愚痴や悪口もいっしょに書かれています。
そんな具合ですから、小吉も家に居つきません。外へ出掛けて…またまたケンカになりますが、今回は犬同士のケンカから発展します。漫画ではページの都合上だいぶ端折りましたが、原作では以下の通りです。
おれは毎日毎日外へばかり出て遊んで、喧嘩ばかりしていたが、ある時亀沢町の犬が、おれの飼っておいた犬と食い合って、大喧嘩になった。そのときは、おれが方は、隣の安西養次郎という十四ばかりが頭(かしら)で、近所の黒部金太郎、同じく兼吉、篠木大次郎、青木七五三之介と高浜彦三郎におれが弟の鉄朔というのと八人にて、おれの門の前で、町の野郎たちと叩き合いをした。亀沢町は、緑町の子供を頼んで、四、五十人ばかりだが、竹槍を持って来た。こちらは六尺棒・木刀・竹刀にてまくり(追立て)合いしが、とうとう町のやつらを追い返した。二度目には、向うには大人がまじり、またまた叩き合いしが、おれが方が負けて、八人ながら隣の滝川の門の内に入り、息をつきしが、町方は勝ちに乗りて、門を丸太にて叩きおる故、またまた八人が一生懸命になって、今度はなまくら脇差を抜いて、門を開いて、残らず切って出たが、その勢いに恐れ、大勢が逃げおった。こちらは勝ちに乗って切り立てしが、おれが弟は七つばかりだが強かった。一番に追っかけたが、前町の仕立て屋のガキに弁次というやつが引き返してきて、弟の胸を竹槍にて突きおった。そのときおれが駆けつけて、弁次の眉間を切ったが、弁次めが尻もちをつき、ドブの中へ落ちおった故、続けうちに面を切ってやった。前町より子供の親父が出てくるやら、大騒ぎさ。それから八人が勝鬨(かちどき)をあげて引き返し、滝川の家へ入り、互いに喜んだ。
亀沢町・緑町の位置はこちら。
小吉の弟・鉄朔が登場します。7歳ということは、小吉より2歳年下です。鉄朔は、今回のエピソードにだけ登場します。
ケンカの方は、大人数でかなり本格的です。ワリと当然のように大人がまじったり、胸を竹槍で突いたり、脇差で顔を切ったりしてますが…。
その騒ぎを、親父が長屋の窓より見ていて、怒って、おれは三十日ばかり目通り(人と会うこと)止められ、押し込めにあった。弟は五、六日押し込められた。
二話目の凧ゲンカの時同様、お父さんが小吉たちの起こした騒ぎを見ていて(※止めない)、兄弟で押し込めにあいます。
ちなみに、小吉は父親の平蔵が45歳の時の子で、長兄の彦四郎とは25歳年が離れていました。
七話「男谷の悪戯子」に続きます。
小吉が、養家の親類の柔術道場へ弟子入りします。イタズラをくり返して相弟子に憎まれた小吉は、仕返しされるはめに…。
お楽しみに!