『夢酔独言』 百六話 島田虎之助に会いに行く
息子・麟太郎の剣術の師匠である島田虎之助と、面識がなかった小吉。島田道場へ、ド派手な格好で挨拶に行きます。
堅物な島田さんは小吉を警戒しますが、小吉は構わず、「ひとつ魂を抜かしてやろう」と、島田さんを外へ連れ出します。
…其時におれがおもうには、九州者の二、三年先に江戸に来たといっても、まだえどなれはしまいから、一ッたましいをぬかしてやろうと心付いたから、ひぢりめんのじゅばんにしゃれた衣類をきて、短か羽織でひょうしぎの木刀を一本さして、逢いにいったらば、…
※原作より現代仮名遣いで引用
島田虎之助は、江戸後期の剣客です。九州出身で、このお話の前年、天保八年(西暦1837)江戸を訪れ、小吉の甥・男谷精一郎の男谷道場に弟子入りし、一ヶ月ほどで免許皆伝になりました。
その島田さんに小吉は息子・麟太郎を預けましたが、一度も会ったことがないので、会いに来たというのが今回のいきさつです。島田虎之助は、この時25歳で小吉より12歳年下、麟太郎の9歳年上でした。
小吉にとって島田さんは、息子がお世話になっている塾の先生なんですが、どういうわけか小吉は島田さんの魂を抜かしてやろう(度肝を抜かせてやろう)と思い付いて、キメキメにキメたファッションで道場を訪ねます。
この時小吉は、「ひぢりめんのじゅばん=緋縮緬の襦袢(真っ赤な高級絹織物の下着)」の上に「しゃれた衣類」、「短か羽織」を着て、「拍子木の木刀」をさしていました(「しゃれた衣類」について具体的には書かれていないので、マンガでは、ビロードに「斧琴菊(よきこときく)」模様の羽織、着物は松葉に江戸東海道の地名散らし、袴は絹に雷紋という粋がったコーディネートにしました)。
参観日で張り切る保護者か。自分の親にこんなことされたら、恥ずかしくて塾の先生に合わす顔がありません。
そのうえ島田さんは堅物。
…おれのなりをやたらに見て、いろいろ世上のゆうだもの(=遊惰者、遊び怠けている人)の事をもってあて付けるように聞きゆるから、…
めちゃめちゃ悪印象持たれてます。
しかしそんな島田さんの前評判を聞いていた小吉、そんなことは気にせず、島田さんを「断るをむりに引出して(原文ママ)」、浅草へ連れ出します。
百七話「島田虎之助の吉原めぐり」に続きます。小吉に吉原へ連れていかれる島田さん、無事に帰ってこられるのか!?