マンガで読める『夢酔独言』

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勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』がマンガで読めるブログです。

マンガ『夢酔独言』 七話「男谷の悪戯子」

 

 勝海舟の父親・勝小吉の自伝『夢酔独言』の七話目、前回に引き続き、小吉が9歳の時の話です。

 養家の親戚に柔術の先生がいたので、弟子入りをする小吉。初めは大人しくしていましたが、だんだんいたずらを始め、弟子たちに憎まれる日々。

 寒稽古になり、小吉はまんじゅうを持って、他の弟子たちが集まる稽古場へ行きますが…。

 

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 九つの時、養家の親類に、鈴木清兵衛という御細工所頭を勤める仁、重柔術の先生にて、一橋殿田安殿はじめ諸大名、大勢弟子を持っている先生が横網町(よこあみちょう)という所に居る故、弟子になりにゆくべしと、親父が言う故行ったが、三、八、五、十が稽古日故、初めて稽古場へ出てみた。始めは遠慮をしたが、だんだんいたずらをしいだし、相弟子に憎まれ、不断(ふだん)えらき目にあった。

※原作よりはやおきによる現代仮名遣いで引用

 

 ここに登場する「一橋殿」「田安殿」というのは、徳川氏一族から分かれたいわゆる御三卿(ごさんきょう)」で、そんなすごい人達を弟子にしていた先生の弟子になったと、小吉は言いたかったようです。ちなみに、残りひとつは清水殿らしいですよ。

 それにしても、稽古日が3、8、5、10日だけって、少ないな…あとは家で自主練するんですかね?

 

 ある日稽古に行くと、榛(はん)の木場という所にて、前町の子供、その親どもが大勢集まりて、おれが通るを待っておる。一向に知らずして、その前を通りしが、

「それ男谷の悪戯子が来た。ぶち殺せ」

とののしりおって、竹槍、棒千切(ぼうちぎり…こん棒)にて、取り巻きしが、すぐに刀を抜いて振り払い振り払い、馬場の土手へ駆け上がり、御竹蔵(おたけぐら)の二間ばかりの沼堀へ入りようよう逃げ込みしが、その時羽織袴なぞが泥だらけになりおった。それから御竹蔵番の門番は、不断遊びに行く故に、いろいろ世話をしてくれたが、家へ帰るが、気概がある故頼んで送ってもらった。四、五十人ばかり待ち伏せをしおった。大きな目にあった。 

 

 

 小吉、めちゃくちゃ嫌われています。

 

 七話に登場する地名ですが、「はんの木馬場」とは本所にあった馬術訓練場で、土手に榛の木が植えられていたために、そう呼ばれていました。「御竹蔵」は幕府の資材置き場で、小吉が親しかった門番は、ここの番人をしていました。

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 左上に横網町」、右に「御竹蔵」、左下に「馬場」と、小吉が暮らした「亀沢町」があります。

    中央に「鈴木清兵衛」さんの名前も見えます。

 小吉が逃げ込んだ堀は、御竹蔵の周りの堀に違いありません。

 漫画では相弟子親子が大勢で武器を持って小吉を待ち伏せして「ぶち殺せ」とか言ってますが、原作通りです。

 

 その後はふた月ばかり、亀沢町は通らなんだが、同町の縫箔屋の辰というやつが、門の前を通りおったから、なまくら脇差にて叩きちらしてやったが、家の中間(ちゅうげん、武家の奉公人)がようよう止めて、辰の家へ連れて行って、榛の木馬場の仕返しの由(よし…訳、理由)をその野郎の親によく言ったとさ。それよりは亀沢町にておれに無礼をする者はなくなったよ。

 

 漫画では縫い箔屋の辰を鞘に納めた脇差で叩いていますが、原作では「なまくら=刃物の切れ味が悪いこと」とわざわざ書いていることから、脇差を抜いて叩いていたようです。さすがにそれはちょっと…と思ったので、漫画では変更しています。

追記:…と書いたのですが、今日(2021年1月7日)原稿を見返したら、5、6ページで小吉めっちゃ脇差抜いてました。ネームでは鞘に納めていましたが、清書では原作に忠実にしようとしたもようです。完全に忘れていました。あと、「御竹蔵の近所の門番」としていますが、「御竹蔵の門番」が正しいです。「御竹蔵の門番みたいな人と知り合いになれるわけねえ」と、自分目線で考えてしまいました。

 

 

 

  さて、そんなこともありましたが、稽古場で「夜つぶし」というイベントが開催されます。

 

 柔術の稽古場で、皆がおれを憎がって、寒稽古の夜つぶしいうことをする日、師匠からゆるしが出て、出席の者が食い物をてんでんに持ち寄って食うが、おれも重箱にまんじゅうを入れて行ったが、夜の九つ半(12時)になると、稽古を休み、みなみな持参の物を出して食うが、おれも旨い物を食ってやろうと思っていると、みんなが寄って、おれを帯にて縛って天井へくくし上げおった。その下で残らず寄りおって、おれがまんじゅうまで食いおる故、上よりしたたかおれが小便をしてやったが、取り散らした食物へ小便がはねおった故、残らず捨ててしまいおったが、その時はいい気味だと思ったよ。

 

 夜つぶしとは、夜更かしとか徹夜のことのようです。 肝試しの時(五話参照)は夜中の1時に子供が一人で外出していましたが、今回は、夜12時にみんなでお夜食タイムです。楽しそう。

 そんな中、みんなから嫌われている小吉は、帯で縛られて天上へ吊るされてしまいます…が、小便をまき散らして「いい気味だ」と思ったと書いているので、全然懲りてないようです。

 

 それにしても、小吉が柔術の先生に弟子入りしてイタズラをして憎まれ、憎まれエピソードを挟んで最後は吊るされたけどいい気味だと思ったという流れは、テーマが一貫していて、あらためて小吉の文章力に惚れ惚れします。はやおきは『夢酔独言』についてだいたいベタ褒めするので、客観的な感想かどうか怪しいですが。

 

 

 

〈2024年4月14日追記〉

 天狼星の輝き様より、この記事の内容についてコメントをいただきました。「四方山話の一つとして」という前置きを付けたら紹介してもよいとのことで、その内容をここに転載します。

 確か偶数日は学問所(寺子屋昌平坂学問所)に通い、奇数日が自主練(学問武術含む)で、学問所は月以上出席だったら皆勤、だったような……。

 天狼星の輝き様、ありがとうございました。

 

 

 

 八話「I want to ride my horse.」に続きます(横文字なことに特に意味はない)。

 10歳になった小吉は、馬の稽古を始めます。

 ネームの時は省いていた、原作エピソードを盛り込んだお話になっています。

 お楽しみに!

musuidokugen.hatenablog.com