『夢酔独言』 百十六話 夢酔、雨を降らせる
村に大金を出させるために、人心掌握にいそしむ夢酔(小吉)。
ある日、夢酔は村の悪党たちを連れて能勢妙見へお参りに出掛けます。晴天続きというのに、「人数分の雨具を持って行く」と言い張る夢酔。
次なる作戦は、「雨降りを予言して的中させ、悪党たちをへこませる作戦」のようです。…うまくいくのか?
マンガでは百姓の若者たちと出掛けたみたいになってますが、実際は、「悪党」とは言っても庄屋さんとか、もっと地位のある人達だったかもしれません。
前回、反発する村人たちに、大坂の町奉行と仲良しだとアピール(実は真っ赤な嘘)して、鎮静化させた小吉。
村にとっては地頭(支配・管理者)の家来として村に来た小吉ですが、「今日はおれが(個人的な)参詣」と言って、悪党たちを連れ出します。
池田まで来て休んだが、駕籠の雨具がないから取りに帰らせて、それから能勢山へ行った。
天気が良くって、山から大坂、尼ヶ崎、摂津の浦々を一目に見た。十一月というのに暖かくて、袷(あわせ、裏地の付いた着物)一枚でも、山を登ると汗が出るくらいだった。なかなか雨など降ろうとは誰も思わないから、道具持ちの奴が腹を立てていた。
ふもとの茶屋へ駕籠を預けて、二十五町(約2,7㎞)山を登った。ようよう妙見宮へ着いたから、水行をして本堂へ上がった。そこに居た大勢の者が御紋服(ごもんふく、紋付の着物)を見て怖がって、外へ逃げ出しおった。おれは静かに拝礼した。
門外の茶屋で一休みし、山を下りた。
半分ばかり下りると、有馬の六甲山より雨雲が出てきた。その時おれが、
「今に雨が降るから、手前は仕合せだ。荷が軽くなる」と合羽持ちに言ってやったら、皆が
「たとえ雲が出ても、雨は降りはしませんよ」と言う。
「下の旅籠屋までは、降らせたくねえ」
とて急いで山を下ると、二十五町の峰を下りたところで大雨が降ってきた。旅籠屋までは三町ばかりあって、供の者はぐず濡れになった。おれは駕籠に乗っているから、困らぬ。
※原作よりはやおき訳で引用
さて、宣言通り雨は降ったわけですけれど、悪党たちはどう出るのか…!?
※ところで上坂編のメイン舞台は大坂なので、村の皆さんは実際は当然関西弁なんですけども、昔のコテコテの関西弁だと、現代人にとっては逆に嘘っぽくなってしまうので、皆さん標準語で翻訳しています。原作でも言葉遣い一緒だし。
百十七話「支度」に続きます。小吉が日本橋へ芝居を観に行きます。