『夢酔独言』 六十二話 誰が書く
時は流れて、小吉、(一時的に)42歳。妻・信に『平子龍先生遺事』を書かせ、「書くべきことはみな書いた」と満足します。その日、小吉は死んだはずの柳亭種彦に会います。
『夢酔独言』との文体の違いから、『平子龍先生遺事』は小吉の妻の信(のぶ)が書いた説があり、マンガではこれにのっとりました。マンガには『平子龍先生遺事』の執筆シーンが何回か登場しますが、小吉が直接書いている描写は、実はありません。
↑信が書いてるのを見てるだけ
↑信の手
↑書いた紙を見てるだけ
以上、全部信が書いてました。
今回のお話は、全編おおむねフィクションです。『夢酔独言』を書くきっかけ的なエピソードです。
『平子龍先生遺事』を書いたのが天保十四年の初夏、『夢酔独言』を書いたのが初冬なので、時系列は合っています。
小吉が柳亭種彦と知り合い、という息子(海舟)の話を、フルに活かさせてもらいました。マンガでは小吉が20歳ぐらいの時、吉原で知り合ったことになっています。↓
柳亭種彦という人は、江戸時代のけっこうメジャーな小説家で、代表作は『偽(漢字が違うのですが出てきません)紫田舎源氏』。『源氏物語』を室町時代に移してリメイクしたもので、当時の大奥を描いるという説もあります。天保十三年の水野忠邦の改革によって、絶版になり、種彦さんも間もなく亡くなります。小吉が「前年死んだとこだろう」と言っているのはこれを指します。
この天保の改革ですが、小吉もあおりを食らいます。『平子龍先生遺事』、『夢酔独言』の執筆のきっかけのひとつだったかもしれません。
ちなみに、夢の中で二人が居る部屋の襖の絵は猿です。かわいい。
あと、最初の方で家族で食事している場面がありますが、上座とか下座を考えずに描いたので、テキトウだと思って気にしないでください。
六十三話に続きます。