土曜時代ドラマ『小吉の女房二2』の地上波放送が始まったので、BS放送当時に描いた感想&『夢酔独言』的解説記事を公開し直します。内容はBS放送時のものです。ネタバレがおおいにあるので、ドラマを観た後で読んでくださいね。 第六回「小吉、贋(にせ)金づくりの友になる」は、2月26日土曜日18:05~、NHK総合にて放送です!
勝海舟の父・小吉の妻のお信を主人公にしたドラマ『小吉の女房2』。
この記事では、ドラマの感想と、はやおきの持てる知識による解説(前々々回くらいまでは勝小吉自伝『夢酔独言』的解説をしていたのですが、小吉の人生も晩年に近づき、ドラマの内容が『夢酔独言』と関係なくなってきたので)をお送りします。
ネタバレあり。
なお、解説中のセリフはうろ覚えです。
・第六回「小吉、贋金づくりの友になる」あらすじ
天保の改革が吹き荒れる江戸の街。お信(沢口靖子)と小吉(古田新太)の気づかぬ間に、麟太郎(稲葉友)は芸者・お民(大西礼芳)と人知れず恋を育んでいた。そんな頃、小吉は錺(かざり)金具師(かなぐし)の仙太(本田大輔)と知り合う。仙太は幕府の通貨政策に不満を抱き、自分の技術を活かして秘かに贋金を作っていた。仙太に役人の手が迫ってくる。そして、天保の改革も幕閣の失脚であっけなく幕を閉じることに。
※NHKホームページより引用
・感想
・佐久間象山先生登場。若い。
・巾着切りの銀次が本領発揮
・小吉、ついに『夢酔独言』を書く
・解説
時は天保十四年(西暦1843)夏。お信(沢口靖子さん)40歳、小吉(古田新太さん)42歳、麟太郎(稲葉友さん)21歳、お順(稲垣来泉さん)8歳です。
家の縁側で、「被下」と書かれた紙を眺める小吉とお信。越前和紙に楷書(新書)で書かれた「被下(くだされ)」と書いて、「越前守(水野忠邦。天保の改革をおし進めた)」死んでくだされ」という意味らしいです。何て入り組んだ洒落だ…そしてめちゃ怖い。
この「被下」と書いて「くだされ」と読ませるのは当時わりと浸透していたのか、『夢酔独言』でも、この言葉が登場します。
※21歳の時の2度目の家出の際、修行のためと大嘘をついて、箱根の関所を通してもらうくだりです。「おれは殿様だから」じゃねえ。何言ってんだ。
一方。島田虎之助さんの道場での小吉の息子・麟太郎。この頃麟太郎は直新影流の免許皆伝となっていましたが、何故か一人で稽古しています。外出から戻ってきた島田さんに「私では稽古の相手にならないからでしょう」と言う麟太郎ですが、島田さんは、蘭学を学んでいる麟太郎を避けているのだと見抜きます。
このことは麟太郎(後の勝海舟)自身が、
吾輩和漢の文を読習し初めしは、天保十三年壬寅の秋ごろ成りしに、此ころ少しく解し得たるものあるに似、いとた易き文など書き試むれば世人甚恐れ…
と書き残しています。
なぜ蘭学をやってると「世人甚恐れ」るのかというと、幕府によって取り締まられていたからのようです。
※マンガ『夢酔独言』だとこの辺
では島田虎之助さんはどうだったかというと、そもそもは出世のあてがなく剣術一本に打ち込んでいた麟太郎に、初めに蘭学を勧めたのは他でもない島田さんなのです。
※「歳を取り過ぎたから剣術以外の道へ踏み込めない」とかいったセリフは、実際言っていたようです
麟太郎が蘭学の師・都甲斧太郎先生(風間杜夫さん)と勝家に帰宅すると、変な人(佐久間象山先生)が。
佐久間象山先生は小吉より9歳年下の31歳なんですが、ドラマでは心なしかさわやか好青年みたいなビジュアルです(ヒゲ生えてるけど)。
この佐久間象山先生、嘉永五年(西暦1852)、42歳の時に、麟太郎の妹・お順と結婚しています。お順はこの時17歳。年の差25歳です。
松浦玲著『勝海舟』によると、「麟太郎の母親が男まさりの字を達者に書く女丈夫で、この人が象山を気に入って貴方なら娘を差し上げても良いと言ったという。」
お信のお墨付き(字が達者だけに)だったようです。マジか…。自分の夫が無学なのがそんなにイヤだったのか…どうかは分からないけども…。
象山先生、「孫子の兵法では西洋に勝てぬ」と言っていましたが、物識りなもんで、「漢学者が来ると洋学をもっておどしつけ、洋学者が来ると漢学をもっておどしつけ」(『氷川清話』より)といった具合だったようです。あと、後年の勝海舟にめちゃくちゃ悪口言われてる。
ちなみに、「海舟」という号は、象山先生が書いた「海舟書屋」という書を、麟太郎が気に入ってつけたそうです。麟太郎、悪い意味で発想が柔軟です。
※漫画では蘭学者の麟太郎を漢学をもっておどしつける佐久間象山先生
後日、巾着切りの銀次と町を歩く小吉。
ここからノースリーブの金具師・仙太と出会い、ストーリーが展開していくのですがそこはドラマオリジナル展開なのですっ飛ばして(一応当時の貨幣事情について早口で解説すると、幕府は元禄以来、改鋳=小判のリニューアルをするたびに、小判に含有される金の量を減らして小判の価値を下げ、インフレを引き起こしていました。天保の改革では、幕府は庶民の贅沢を取り締まりましたが、幕府による小判の改悪も、要因のひとつだったのです。一方、幕府側は旧小判と新小判を交換した際の差額を、利益としてい懐に入れていました)、天保の改革は、水野忠邦の失脚によって幕を下ろしました。
この間、相変わらず箸が転げても文吉さん(大西礼芳さん)を連想して挙動不審になる麟太郎を挟みつつ、小吉がついに自伝『夢酔独言』を書きます。
※実際は天保十四年初冬に書いたらしいですが、そんな細かいことは気にしないでください。
珍しく筆を執る姿に、家族から病気を疑われる小吉ですが …。
お信が読み上げた『夢酔独言』の本編冒頭部分がこちら。
おれほどの馬鹿な者は、世の中にもあんまり有るまいと思う。故に孫や曾孫のために、話して聞かせるが、よくよく不法者、馬鹿者のいましめにするがいいぜ。
※原文に限りなく近い文面はこちら
はやおき、号泣です(まあ、BS放送は実家でしか観られないので、実家のリビングでこっそりですけども…)。今も文章打ちながら泣いてる。
『夢酔独言』は、はやおきにとって邪馬台国であり、ツチノコなのです。日々追い求めているけども、存在がマイナーなもんで、 時々むなしくもなる。しかし今日、その文章が他人によって読み上げられ、実在が証明された感動…!!前から実在してたんだけどね!
それはさておき、
最終回「麟太郎、妻をめとる」は、5月14日(金)、NHKBSプレミアムにて放送です!
あらすじはこちら↓
ようやっと、マンガ『夢酔独言』に出てくるエピソードが登場しそうです。
↑麟太郎の結婚エピソード。意味的には「麟太郎、妻を娶る(めとる)」なんだけども、はやおきが「娶る」を読めなくて「取る」にしたのです。お陰でサブタイトルがカブらなかったぜ!
↑次回あらすじに名前がある高野長英さんが登場します。冒頭から、夢酔(小吉)が死んでるけど気にしないでください。小吉はみんなの心の中にいます。
第七回「麟太郎、妻をめとる」のNHK総合での放送は、2022年3月22日土曜日18:05~放送です!